8時起床。外はまだセミが元気に鳴いている。陽射しも強い。ただ、少し違うのは風だ。風が爽やかに吹き抜ける。128分走る。jogから戻りお風呂に入り、ジューサーで豆乳バナナ・シェイクを作って、それを飲みながらメール・チェックなどをする。これが一日で最も幸せな時間です。だからおのずと、その時に流す音楽はとても大切なものになる。秋になるといつもグレイトフル・デッドを聴きたくなる。それも特に、デッドの長い活動歴の中で、中期以降の代表曲と言われている「アイズ・オブ・ザ・ワールド〈Eyes Of The World〉」というナンバー。
これは1973年、彼らがメジャー、ワーナー・ブラザーズを離れ、自ら設立したグレイトフル・デッド・レーベルから初めてリリースしたアルバム『Wake Of The Flood』で発表された曲だけど、正規リリースされたものだけでも多くのヴァージョンが存在する。まず、その『Wake Of The Flood』には5分16秒のスタジオ録音の他、2004年にボックス・セットとしてCD化された時に17分02秒にわたるライヴ・ヴァージョンのボーナス・トラックが付いた。他にも、99年に発売されたライヴ音源を中心にしたボックス『ソー・メニー・ローズ〈So Many Roads〉』に18分32秒のヴァージョンが収録されている。
今日はアリスタ時代の最後のアルバムで、89年から90年にかけてのツアーを記録した『ウィズアウト・ア・ネット〈Without A Net〉』に入っている16分17秒の「アイズ・オブ・ザ・ワールド」を、デッキのトラック・リピート機能を使って繰り返し聴いた。これにはゲストで、ジャズ・サックス奏者のブランフォード・マルサリスが参加している。だから、というわけじゃないが、此処で繰り広げられる演奏はロックとかクロスオーバーと呼ぶよりはジャズに近い。フィル・レッシュのベースは細かい16ビートを刻み続けていて、ジェリー・ガルシアのギターには深いコンプレッサーがかけられ、そこを果てしない広がりのリヴァーブが包み込んでいて、まるで空に舞うキラキラとした光の粒のようだ。
サビで唄われる「さあ、眼を覚まして、自分が世界の眼だということに気づいてごらん」という印象的なフレーズは、デカルトの「我思うに我あり」にも似て、一見難解だ。けれど、考えようとはせずにデッドの音楽に身を委ねていると、何となくその意味を感じられるような気がして来る。それは、君が世界を見ようとするから世界が存在するんだよ、というメッセージだ。同時に広大な世界の中で人間はちっぽけな存在かもしれないけれど、その心の中にも空間があり、昼と夜があり時間がある。それはつまり無限であり、この果てしない宇宙と同等なんだよと言っている気がする。グレイトフル・デッドが表現しているのは、常にそんな人の心の可能性だと思う。