ポール・サイモンに
「僕のコダクローム」という曲がある。1973年に発表された『ひとりごと〈There Goes Rhymin'〉』というアルバムに入っている。“コダクローム、僕達にあの、明るい素敵な色を与えてくれる”と、素晴らしい歌詞で唄われる。こういう表現を目の当たりにしてしまうと、ポール・サイモンって本当に天才だよなあ、と思ってしまう。フレーズはさらに、“僕達に夏の緑を与えてくれる”と続く。そう、美しい光や夏の匂いは、季節が巡ればただそこにやって来るのではない。誰かが感じよう、記憶しよう、写し取ろうと思った時に初めて確かに、そこに存在する。
才能と言えばもう一人、大滝詠一に「君は天然色」という曲がある。“想い出はモノクローム、色を付けてくれ”という歌詞は松本隆。アンサーソング、というわけではないだろうが、決して無関係ではないだろう。これはあくまで個人的な見解かもしれないけれど、コダクロームというフィルムはアメリカで生まれたものなので、湿気の無い、カラリとした夏の風景を写し取るのに適しているような気がする。つまりは「君は天然色」が収められた
『A LONG VACATION』、永井博が描いたあの、アルバム・ジャケットの風景である。
一方フジクロームは日本で開発されたフィルムなので、この国独自の風景を写し取るのに適している。低感度のベルビアは、初夏の朝、雨に濡れた紫陽花なんかを撮ると非常に美しい。水彩画のような味わいとでも言おうか。そして感度の高いプロビアは、増感して荒れた感じを出すと、つげ義春や林静一が描く陰影の深い劇画のような雰囲気を醸し出す。日本国内に於けるコダクロームの販売は残念ながら2007年春に終了したそうだが、フジクロームは健在である。
※写真は、よみうりランドの観覧車。1998年晩冬。data:ニコンFA、ニッコール24mmf2.0、フジクローム PROVIA 400Fを800に増感。