7時に起きる。寝室の窓を見ると外が真っ白だ。数日前に雪はもう最後かなと書いたけれどまだ冬は終わらない。朝の空気がききりとしたこの季節が好きだ。もう少しだけ続いて欲しいと思う。
いつもよりさっと風呂に入って熱い珈琲を手にiMacに向かう。昨日書ききるつもりの原稿が残ってしまった。途中、必要になってカンパニー松尾の
『Auction02』(HMJM)を見る。朝メシ抜きだからハラは減るし何しろ早く上げて編集者に送らなければならなのだがついつい見入ってしまう。何度見てもいい。特にchapter'5、AV女優志願の女の子とモメて言い合いになり、彼女が捨て台詞を残してホテルを出て行く。ひとり部屋に残された松尾の、その憔悴しきった心を洗い流すが如く突然雨が降り始めるシーンは何度見ても鳥肌が立つ。
「天才は天候までも呼び込む」とは荒木経惟の言葉だがまさにそうだ。12年前、やはり仕事として何気なく見ていたビデオの中に松尾の作品があり、いてもたってもいられなくなり「とにかくこの男に会わねば」と駒沢のV&Rプランニングを訪ねた時のことを思い出す。以来12年間、松尾は変わらず傑作秀作を作り続けている。そして、これほどまでも心に「確信」を残してくれる作品を作る映像作家は 本当に希有だ。このAVは素晴らしいと確信させるゆるぎない力だ。誰が何と言おうと僕の中には松尾の映像が残した確かな痕跡がある。もちろん、それを感じるのは僕だけではないはずだ。
夕方、伊勢鱗太朗組の台本打合せで巣鴨の鱗太朗商店へ行くと、
カーネーションというバンドでベースを弾いている大田譲くんがいた。大田くんは
青山陽一さん達と
グランドファーザーズというバンドをやっていた頃から伊勢組のスタッフだった。そして今でも人手が足りないとこうしてかり出されてくる。
「まったく伊勢さんはいつも急だから。オレ、来週からツアーなのに」とぶつぶつ言っている。ツアーは九州全土を六ヶ所廻るとか、「オレ達みたいなバンドが無謀でしょ?」と大田くんは笑う。確かにカーネーションのちょっぴりねじれたようなポップなサウンドと九州という骨太な土地柄では多少ミスマッチな気もする。何でも博多に彼らを熱狂的に支持してくれる若いイベンターがいて、熱心にブッキングしてくれたそうだ。
メジャーな音楽業界からすると、カーネーションは決して売れてるバンドとは言えないかもしれない。しかし結成20年。10枚以上のアルバムをリリースし毎年こうして各地からの熱い支持を受けて精力的にツアーに廻っている。何よりヴォーカルでリーダーの直枝政広さんはあきれるくらいたくさんの名曲を書き続けている。その才能は決して涸れない井戸のようだ。大田くんも直枝さんも僕とひとつ違いの同世代。作り続けること、伝え続けることの大切さを強く思う。
「久しぶりだし寒いから鍋で一杯いきたいねー」などと言いつつも、大田くん達は明日撮影だし、僕も寄るところがあるのでガマンする。僕は高田馬場で途中下車、コアマガジン「ビデオメイトDX」編集部でDVDの画面撮りをさせて貰って帰る。雪は雨に変わって降り続いていたし、サスガに疲れたので少しだけ贅沢して駅からタクシーに乗った。今日もジョギングを休んだせいか長い長い一日だった。