8時起床。二日間降り続いた雨はやんだ。気持ちの良い秋晴れ。起き出してすぐ、まだ半分眠ったままでスティーリー・ダンのCDをトレイに入れ、オーディオで鳴らす。数年前から気がつき始めたのだけど、ある特定のアルバムやアーティストをふと聴きたくなるというのは、その音楽を初めて聴いた季節が巡って来た時のようだ。記憶がその季節の気温や漂う匂いと一緒にインプットされていて、無性に聴きたいと思わせるのかもしれない。
スティーリー・ダンを初めて聴いたのは確かに今頃の季節だった。僕は大学受験の浪人中で、高田馬場の予備校に通っていた。新宿でレコード・セールがあって、スティーリー・ダンの4枚目にあたるアルバム『うそつきケティ』のカット盤を、そのカマキリの写真を使った一風変わったジャケットに惹かれて買った。当時はタワーレコードやHMVのような、大手の輸入ショップが無かったので、たぶん小さなレコード店が共催していたのだろう。ビルの催し物会場のような場所でそういったセールが行われた。
カット盤というのも今となっては説明が必要だろう。在庫がだぶついて売り切れないものを、通常の流通に乗せないために、わざとジャケットを傷つけたものだ。そんな買ったばかりのアルバムを抱えて小田急線に乗った。列車が多摩川を渡る時、空ばかり見ていた記憶がある。今でもこの季節、青く澄み切った空を見ると、ドナルド・フェイゲンのあの、喉の奥からひっくり返って出て来るような独特の声を聴きたくなる。