6時起床。霧のような雨が降っている。126分走る。今日もモンベルのレインウエアが大活躍だ。今シーズンだけで充分元が取れそうな気がする。雨の上がった午後、吉祥寺にて旧知の女友達と会う。彼女に初めて会ったのは20数年前。場所は丹波篠山、夏のコンサート。後輩のバンドでキーボードを弾き、夜は紺に牡丹模様の可憐な浴衣を着ていた。その後僕の親友といって良い男と結婚し、東京にやってきた。そして、二年前に離婚した。会うのはたぶん、六、七年振りだろう。しかしこのくらい長い付き合いになると、もう完全に他人という気はしない。井の頭公園を散歩し、眼に付いたラスタマンみたいなお兄ちゃんのやってる沖縄料理屋に入る。
彼女は一人で職を探し、アパートを見つけたことを話す。「私、一人暮らし初めてやんか」「えっ、そうやったっけ?」と僕。「そうやて。篠山では実家やし、結婚してすぐ東京来たやん」「40過ぎて仕事探すのも大変やったんと違う?」と僕。「どうせ何にも出来へんのやろ、パソコンとか」と言うと、「出来るよー、パソコン。バカにしたらアカンよ」と笑った。そう言えば彼女が妊娠した時、仲間と一緒に「大丈夫か、子供みたいな顔して子供産めるんか」と心配すると、やはり「産めるよー、ナメたらアカンで」と頬を膨らませたのだ。その時の娘が18才になる。父親と一緒に暮らしながら、将来の目標のためにアルバイトに頑張る日々だという。
娘とは去年の夏、篠山で約10年振りに会った。娘と女友達は、母子というより姉妹のようだと思った。そして出会った頃の彼女に似ていた。娘は僕を「ミッキーちゃん」と呼ぶ。僕の父親が死んだ時、まだ幼過ぎてお葬式というものを理解出来ない娘を、彼女が「ミッキーちゃん(ミッキー・マウス)に会いに行くんだよ」と言って連れて来てくれたからだ。湿りがちな葬儀の場に天使のような可愛い女の子が現れてくれたので、僕の母はとても喜んだ。「──君(僕の親友)がええ子やからお嫁さんもええ子やし、だからお嬢ちゃんもええ子やね」と言った。そして「あんたは良い友達に恵まれて幸せだ」と。
吉祥寺に70年代からある珈琲屋でアイスコーヒーを飲み、女友達を井の頭線の改札まで送って「また会おう」とハグして別れた。JRの改札へと続く階段を降りながら鼻歌を口ずさんだ。♪ほっく、らの、くっらぶ、の、りーだー、わ、ミッキ・マウス、ミッキ・マウス、ミッキー、ミッキー・マウス。つよくて、あかるい、元気者、ミッキ・マウス・ミッキ・マウス──。