ペニー・マーシャルが亡くなった。トム・ハンクスの『ビッグ』(1988年)、ロバート・デ・ニーロ、ロビン・ウィリアムズ主演の『レナードの朝』(1990年)、そして『プリティ・リーグ』(1992年)といった名作を撮った女性映画監督。女優としても1991年のコメディ『ハード・ウェイ』で、マイケル・J・フォックス演じるワガママなハリウッド・スターのマネージャー役が印象的だった。けれど、僕にとっては何と言っても70年代のTVシリーズ『ラバーン&シャーリー』である。
〈12月5日の日記〉にも書いたが、1988年の冬にアダルトビデオ監督という職業に疲れ果てて鬱になってしまい、結局翌年の3月に僕は会社を辞めた。そして忙しすぎて使う暇もなかった給料が銀行に100万円ほどあったので、そのお金でアメリカへ旅に出た。
転地療法ではないけれど、後から思うとこれがよかった。外国のひとり旅は初めてで、英語もロクにしゃべれないので、その日の安宿を確保し次の街へ向かうためだけに必死になっていると、余計なことを考えなくて済む。気がつくと鬱は治っていた。まずはグレイハウンドバスでLAからオマハ、シカゴを経由してニューヨークへ行き、そこから飛行機でサンフランシスコへ。最終的にはハワイのワイキキに住み着き、ジョギングを始めた。そこでやっと、自分がやるべきことはAVや音楽PVを撮ることではなく文章を書くことなのだと気づいた。当時はもちろん手書きだが、ハワイに原稿用紙は売っていない。アラモアナショッピングセンターで方眼のレポート用紙を買って来て、発表するあてもない文章を毎日書いた。
月700ドルの安いコンドミニアムに住み、朝はアラワイ運河沿いの遊歩道からカピオラニパークを2周走った。部屋に戻りシャワーを浴び、当時はまだ日本で販売していなかったミニッツメイドのオレンジジュースをグラスに注ぎ、テレビを点けると一部日本語放送もするハワイ州NBC系列局「NHNL・13ch」で流れていたのが、シンディ・ウィリアムスとペニー・マーシャル主演のシットコム、『ラバーン&シャーリー』だった。あれからもう、30年近い時間が流れてしまった。けれどこのオープニングテーマを聴くと、今でも照りつけるハワイの陽射しと風、ミニッツメイドの味を思い出す。あのときから、僕の人生は変わったのだ。ペニー・マーシャルの享年は75。一昨日誕生日を迎えたキース・リチャーズと同い年だ。まだまだ若い。女優としても監督としても、もっとオバアサンになればなるほど、味の出る人だったと思う。R.I.P.
※YouTube画面はその『ラバーン&シャーリー』のオープニング。本国ではシーズン8まで続いた人気番組で、舞台は1950年代。ルームシェアする親友同士の女の子が、ミルウォーキーのビール工場で働く物語(シーズン6からはロサンジェルスへ二人で引っ越すという展開となる)。このドラマに関しては
〈2011年8月4日の日記〉にも書いています。