東京は梅雨入りしそうでしない日々が続いている。友人が命を絶った2013年は、「5月29日に梅雨入りした」とこの日記を読み返すと書いている。例年より10日早かったそうだ。この年の初めに僕はすべての仕事を失い、ツテを辿って何人かの人にお願いし、情報誌の仕事をもらってやっていた。馴れない取材に身も心も疲れ果て家に戻る。前に住んでいたアパートは2階の長い廊下の突き当たりに部屋があり、傘を閉じて歩いていくと、そこに立ち尽くす友人の幻影を必ず見た。霊とかそういうものではない。あまりに心細く孤独で辛かったため、彼にそこにいて欲しかったのだと思う。
友人は近づくと必ず、ぎこちなく笑って「すまんなあ」と言った。それは死を選んで申し訳ないという意味にも、「行くところがどこにもないんや」と言ってるようにも思えた。僕は「何言うてんねん、入れや」と言い、ドアを開けて二人で部屋に入った。悲しみは深く果てしなかったけれど、それは優しい時間でもあった。
※写真は月曜日。雨が降りそうな団地の風景。data:iPhone6 #Instagram #MOLDIV #ENCIL