新宿で打合せがあって帰り道の夕方、中央線に乗ってドアにもたれ、iPad miniでfacebookを開くと、とある同業者の人が「6時に荻窪の××という店にいきます。一人なので、誰か来られる方がいたら一緒に飲みませんか?」と書き込んでいた。時計を見ると5時半。その人とはコメントやメッセージのやりとりはもう何年もしているものの、実際にお目にかかったことはない。こちらは家に帰って寝るだけなので、夕食かたがたご挨拶しようと思った。
荻窪で途中下車。その店は駅から徒歩3分ほど。居酒屋と小料理屋の間といった雰囲気で、4人掛けのテーブルが狭い店内、少々窮屈な感じで4つ。カウンターの前が3畳ほどの座敷になっているという変わったつくり。時間が早いこともあり、テーブル席に人はいず、座敷におそらく開店前から飲んでるらしい近所の常連風が3人ほど。すでに酔っていて、店員相手に大声で話している。とりあえずカウンターに近いテーブル席の隅にショルダーバッグをおき、トイレに行った。
ところが出てみると僕のテーブル席には3人が座り、他の席も8割方埋まるほどの盛況になっていた。入口からは写真だけで知っているfacebookの同業者氏が入ってきたが、すぐに近くのテーブルに座り知り合いらしい人と親しげに話し始めていたので、挨拶は後にして席につくことにした。すると店主らしい男がカウンター越しにメニューを差し出し、「お客さん、注文してくれないと困るよ」と怒ったように言う。「困る」って、まだ聞かれてもいないんだけどなと思いつつ立ち上がってメニューを受け取るも、初めての店だし何を注文していいかわからない。
「おすすめは?」と聞くと「ウチは握りだね。イカ、タコ、甘エビ、赤身」というので、「じゃあ、おまかせで一人前」。そう伝えて座ろうとすると、席にはもう一人仲間らしいのが増えていて、ショルダーバッグを置いたスペースだけを残すのみ。遠くに一席空いていたので移ろうとすると、そこにいた、やはり常連風に「ダメダメ、ココにはすぐ来るんだよ」と言われてしまう。握りを頼んでしまったので帰るわけにもいかず、仕方なく座敷の「上がり框(あがりまち)」のところに座って席が空くのを待った。
しかし何しろ手持ちぶさたなので通りがかった割烹着姿の女将に「ビールを」と頼むも、「アイヨ」と言ったっきり持ってこない。握りもこない。何とも心細い感じで膝を抱えていると、件の同業者氏は「混んできたから帰るよ」と出ていってしまった。「もういいや」とさすがに苛立って通りかかった来た女将に「帰る」と告げると、「お通しと席料で1,200円になります」と言う。「ちょっと待って、お通しなんて食べてないし、席料というけど座ってさえいないよ」と文句を言うと、「お客さん、知らないの? 席料ってのは店の看板をくぐると発生するんだよ」とせせら笑い、同時に店中の客たちもドッと笑った。
「アイツ、席料のことも知らないなんてバカじゃねえの」「イイ歳して世間知らずがいたもんだ」という罵声に背中を押されながら店を出て、空きっ腹のまま寒い夜道を歩いた。どうにも寂しくて切ないが、でもこんな嫌な目に遭ってさえ、さほど腹が立たないのはなぜなんだろうと考え、そうか夢だからだ──と気づいたところで目が覚めた。
※写真、線路の向こうに夕陽が落ちる。data:iPhone6 #Instagram #MOLDIV #VIVID