昨日の続き。秋になってスティーリー・ダンを聴きたくなるのは、おそらくこのグループの音を初めて聴いたのがこの季節だからだと思う。高校を卒業して浪人生活に入り。高田馬場にある一橋学院という予備校に通うようになると、行動範囲がぐっと広がった。それまではレコードを買うなら地元・百合ヶ丘駅前にあった間口一間ほどの小さなレコード店か、足を伸ばしても向ヶ丘遊園前の「すみや」しかなかった。ちなみに「すみや」は静岡から始まった大規模レコード・チェーン店で、渋谷など東京近辺にも何店かあった。
それが高田馬場まで通うようになると、新宿には東口に「ディスク・ユニオン」、西口には「新宿レコード」、新宿御苑の「ディスクロード」など、輸入レコード店があることを知るようになる。高田馬場にも「オパス・ワン」という、白木を基調とした落ち着いてお洒落な輸入盤屋があった。輸入盤は日本盤に比べ8割から7割程度安かったので、ロック好きの浪人生にはこのうえなく嬉しかった。さらに夏が終わる頃になると、時々新宿の住友生命ビルなどのワンフロアを借り切って輸入盤のセールが行われ、そこでいわゆるカット盤と呼ばれる、ジャケットの一部をわざと切ったり穴を開けたりして格安で売られるレコードがあることを知った。これならほとんどが1枚1.000円前後、中には500円以下で手に入れることが出来た。
そうやってセールで買ったのが4枚目、1975年のアルバム
『うそつきケイティ〈Katy Lied〉』だった。スティーリー・ダンのアルバムは当時の英米のレコードには珍しく、インナースリープにすべて歌詞が印刷されていた(一般的に輸入盤に歌詞カードはない。日本盤は日本のレコード会社が独自に歌詞やライナーノーツを載せる)。ウィリアム・S・バロウズを初めビート・ジェネレーションの作家に影響を受けているというダンの歌詞は、すべてが独自のストーリー性を持ち、もちろん未だに英語の内容など芯から理解は出来ないのだが、その「わからなさ」も含めてカッコよかった。A面ラスト、タイトルの「ケイティは嘘をつく」という歌詞の埋め込まれた
「ドクター・ウー〈Doctor Wu〉」を初め、すべてが短編映画を観ているような気持ちにさせられる音楽だった。
※写真は9月30日。公園の駐輪場にて。data:iPhone6 #Instagram #MOLDIV #VIVID