小林信彦著
『ビートルズの優しい夜』は、表題作の他「金魚鉢の囚人」「踊る男」「ラスト・ワルツ」の4作による連作中短編集である。目次には各のタイトルの下に「1966年」「1974年」「1978年」「1982年」と年号がふってある。12月16日の日記に<もう内容は暗記するほどに再読を重ねている>と書いたけれど、それでもやはり忘れていたというか、ハッとさせられる場面は当然のようにある。すぐれた小説とは、すべからくそういうものだ。それは最終話「ラスト・ワルツ」の中ほどにあった。4作はそれぞれ、映画批評を本業としながら生活のためテレビ番組の放送作家をしているコラムニスト(「ビートルズの優しい夜」)、1950年代を愛しながら70年代を生きる時代遅れの中年のラジオDJ(「金魚鉢の囚人」)、喜劇人論を執筆しながらやはり生活のためテレビ番組のコンサルタントを続ける作家(「踊る男」)と、すべてが自分の居場所に違和感を抱き続ける男たちが主人公。

そして「ラスト・ワルツ」の語り手は学生時代から映画青年で、脚本家を目指して大手映画会社に就職したものの、映画界の斜陽によりテレビ時代劇など、ワンパターンなプログラムピクチャーに手を染める無名のシナリオライター、山路敏彦という中年男。47才。50代を目前にして、<脚本家として誇りえる仕事を、なにひとつ残していないことが敏彦の最大の恐怖であった>と語られる。しかしそんな彼に突然、分不相応ともいえる仕事が舞い込む。大阪万博、沖縄海洋博に続く「地球博」なる大プロジェクト。そのメインにすえられる長編映画の脚本執筆である。監督は醍醐潔という巨匠。<黒澤明、木下恵介にやや遅れて、戦後すぐ華々しく登場した>と説明される。イメージ的には川島雄三あたりを元に、かつては常にコンビを組む名脚本家がいたとかしばらく本編からは遠ざかっていたなどなど、小津安二郎や鈴木清順他、世代を超えた名匠を数人組み合わせたような人物像である。
しかしなぜそんな大仕事が、テレビの時代劇や刑事ドラマ専門の無名シナリオナイターに依頼されたのか? そこには怪しげな裏があるのだが、もちろんそれはネタバレになるので書かない。ハッとさせられたというのは以下の場面である。「地球博」を仕切るのは大手広告代理店の「東広」。当然モデルは電通だろう。その敏腕なゼネラル・プロデューサーが、著名人・文化人を集めたコンサルタント会議でこんな発言をする。「東広」の威力をもってすれば、女性の動員はいとも簡単である。しかし問題となるのは<30代以下の自閉型の男性>だ。彼らはオーディオ器機、カメラ、自動車、映画などに専門家はだしの知識があり、<同好組織や独自メディアを持ち、私たちの見えぬところで情報交換をしています>と。
今考えれば、その「彼ら」が何者なのかは瞬時にわかる。「オタク」である。それも1980年代初頭に現れたアニメやマンガを愛しコミケに出没するオタクではなく、もっと広義の、90年代以降、そしてインターネット時代に急速に増殖した「物言う」サイレント・マジョリティたちのことだ。そして冒頭、それぞれのタイトルの下に年号がふってあると書いたが、実はこの「ラスト・ワルツ」が書かれたのは1979年。つまりこれはSFではない近未来小説であり、サブカルチャーの行く末を予言した、メディア論的神託の物語なのである。
※写真は単行本版『ビートルズの優しい夜』(新潮社)。タイトルと著者名を窓で囲った印象的なロゴ、装幀は平野甲賀。カバー写真(1966年ザ・ビートルズ武道館公演)は浅井慎平。data:iPhone6 #instaplus #Velvic #RVP100
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