11月27日（木）鬼頭径五『Train (Good bye Juke)』1987-1988

　少し前に教えてもらったのだが、仕事が忙しかったり疲労がひどかったりでなかなかアップ出来なかった（少々長文になるので）。僕が1988年に撮った、ロックンローラー鬼頭径五のPV『Train (Good bye Juke)』がYouTubeにあがっています。長年鬼頭くんのマネージメントをやっているAちゃんがfacebookのメッセージで伝えてくれた。昨年9月、田中一郎さんの『ミッドナイト シャッフル（Midnight Shuffle）』について書いたときにも触れたのだが、僕の撮った音楽PVのうち、この『Train (Good bye Juke)』が最も想い出深いものでありながら、しかし手元にVHSテープすら残っていなかったのだ。1986年まで白夜書房という出版社の編集者だった僕は、同じ頃、亀和田武さんによる甲斐バンドの評論集『愛を叫んだ獣』が同社から出た関係で、一昨日の日記にも書いた音楽プロデューサーの佐藤剛さんと知り合う。剛さんは当時甲斐バンドのプロダクション・マネージャーであり、その甲斐バンド解散後に手がけたアーティストが鬼頭径五だったというわけだ。　10代の頃から京浜地区では名の知れたロッカーであり、「川崎のブルーススプリングスディーン」とも言われていた鬼頭くんはCBSソニーとメジャー契約をして、1stアルバムを出す直前だった。最初はアルバム販促用のポスターとファンジンのようなものを作った。そのためツアーに同行して写真を撮らせてもらっていたのだが、その頃から僕が編集者を辞めアダルトビデオの監督を本格的に始めたことから、同時にビデオも廻すようになった。関西方面を主に、名古屋が「Electric Lady Land」、京都が「磔磔」、大阪が「バナナホール」、神戸が「チキンジョージ」といったライヴハウスツアーである。メンバーは鬼頭径五に加え、ドラムスが元・柳ジョージ&レイニーウッドの四ツ田ヨシヒロ。ベースが古くは高田渡のヒルトップ・ストリングスバンド、その後小山卓治 wih THE CONXに参加した大庭珍太。ギターは京都で絶大な人気があったというR&Rバンド・Bound（古田光郷(vo)、高木親(t.sax)他）の岸田"ゴンベ"良朗。スライドギターが大塚まさじ、西岡恭蔵等が中心となったオリジナル・ザ・ディランのメンバーであり、元レイジー・ヒップの長田'TACO'和承という顔ぶれだった。

　鬼頭くんは三つ年下だが、他のメンバーは70年代から活躍したベテランで、10代の僕が何らかのかたちで音を聴いたか名前を伝え聞いたことのあるミュージシャンである。そんな人たちの演奏にリハーサルから接し、写真を撮りビデオを廻し、毎夜ロックンロールに浸れるという生活はこのうえない幸せだった。今、映像を観て思うのは、惜しむらくは当時の8ミリビデオというものがやはり性能が今ひとつだったということだ。キャノンの「VM-E708」という機種で、柄も大きくファインターはまだ白黒だった。それでも当時の最新鋭だったし、このカメラでなければ、ツアーに同行し、小さなライヴハウスの最前列で足元からステージを捉える、その臨場感は出せなかったと思う。当時はいわゆる「MTV」の最盛期（マイケル・ジャクソンの「Bad」が1987年である）で、ミュージックビデオは贅沢にお金をかけて制作するものだった。

　だから予算がなかったという事情はあるのだが、おそらく8ミリビデオで音楽PVを作ったのは、僕が初めてだったと思う。聴いて頂ければわかると思うけれど、この『Train (Good bye Juke)』は、バンドマンのツアーを歌ったロードソングである。冒頭、鬼頭くんがバーボン・ウイスキーをラッパ飲みする場面は新大阪駅のホームで、最終の名古屋駅行き新幹線を待っていた。彼が単独で大阪のFMラジオに出演したので、僕だけが撮影のため同行し、先に名古屋入りしていたメンバーを追いかけた。バーボンはラジオ局のスタッフの女性が、移動中にどうぞとくれたものだ。局から駅までは地下鉄を使ったのかタクシーに乗ったのか忘れてしまったが、それでもカメラを廻しつつ、二人で交互に廻し飲みしてるうちに、けっこう酔っ払ってしまったという記憶がある。

　鬼頭径五は26才、僕は29才（我々は偶然、同じ誕生日で血液型も同じだった）。メンバーでもギターのゴンさんが一番上で38才。珍太は31才、ヨッさんとタコちゃんは33才だった。彼らは皆、15、16才の頃から名の知れたミュージシャンだったからベテランではあったのだが、今思うと若い。本当に若い。1988年、それでも日本のロックがまだ若かった頃の記録である。この後、ホコ天、イカ天のバンドブームがやって来て、昭和が終わりを告げることになる。

※写真は『Train (Good bye Juke)』のツアーから約半年後。1988年大晦日から1989年元旦にかけて行われた「R&R BAND STAND（ロックンロール・バンドスタンド）」にて、リハーサル前の鬼頭径五。場所は名古屋レインボー・ホール。競演は、僕の記憶ではRCサクセション、山口冨士夫＆ティアドロップス、泉谷しげる with LOSER、BO GUMBOS（ボ・ガンボス）、LAUGHIN' NOSE、他。今見ると、この頃の鬼頭くんはモット・ザ・フープルのイアン・ハンターのようだ。data:ニコンFA、ニッコール85mmf1.4、フィルム・Ilford XP1 400。