雨の降り続く一日。昨日、朝起きてもボーッとしていて何もする気が起きず、特に観る気もなくテレビを点けると、追悼番組としてだろう、NHKで『プロフェッショナル 仕事の流儀〜高倉健スペシャル』の再放送をしていた。2012年、最初の放映の時にも観ていた。これは結果的に最後の作品となってしまった、映画『あなたへ』のロケーションに密着したものだ。通常映画というものは段取りによって、物語の時間軸とは関係なく前後バラバラにシーンを撮影していくものだが、健さんの、映画とは「一度きりを、生きる」ものという信念からだろう、この作品は徹底的な順撮りで撮影されいく。故に、最終日はラストシーンの撮影になる。その朝、初めて観たときも実に印象的だったのだが、ホテルの部屋で健さんは実にリラックスしていて、NHKのクルーに「一緒に珈琲を飲もう」と声をかける。
部屋には小さな音で音楽が流れている。「高倉のお気に入りの曲だ」とナレーションが入るのだが、それが以前観た時も少し意外だった。アメリカのカントリー・ソング
「ミスター・ボージャングル」 なのだ。これはフォーク&ロック系のシンガー・ソングライター、ジェリー・ジェフ・ウォーカーが1963年のデビュー・アルバムで発表したものだ。僕のような70年代のロックファンからすると、ニッティ・グリッティ・ダート・バンドが1970年のアルバム『アンクル・チャーリーと愛犬テディ』でカバーしたバージョンが馴染みだ。また、中川五郎さんが1973年の『春一番コンサート』で歌った素晴らしい訳詞によるカバーも懐かしい。だからちょうど僕の父親と同学年、1931年生まれの健さんが「ミスター・ボージャングル」? と、ちょっと意外だったのだ。
調べてみると『プロフェッショナル 仕事の流儀〜』で健さんが聴いていたのは、ニーナ・シモンによるバージョンだという。そこでなるほどと少し腑に落ちた。言うまでもなくニーナ・シモンとはアメリカの黒人女性ジャズ歌手。1933年の生まれだ。「TAP the POP」というサイトに、僕も以前とてもお世話になった音楽プロデューサーで、現在は作家としても活躍されている佐藤剛さんが、
「シャイで明るい好青年だった高倉健は、いつから寡黙でストイックな男になったのか」 というコラムを書かれている。そして、そこにはかつての奥さま江利チエミさんが、健さんが名曲「唐獅子牡丹」を録音する際、<口移しのように付きっきりで歌い方をアドバイスした>というエピソードが語られているのである。
そうなるとこの「ミスター・ボージャングル」も、ひょっとしてニーナ・シモンと同世代のジャズ歌手であった江利チエミさん(1937年生まれ)が、健さんに教えたのではないか? そんな妄想にとらわれてしまう。よく言われるように、健さんと江利チエミさんは、決して不仲になって別れたのではないという説がある。江利さんの親族に問題があったとか、不幸にも自宅が全焼してしまうという火事に見まわれたり、もしも二人の間にお子さんが出来ていたらそういう結果にはならなかったのでは、という人もいる。そして江利さんは1982年、45才の若さで亡くなる。つまり、何よりも大切な映画のラストシーン、その撮影の朝、亡き妻を想い、彼女の教えてくれた曲を聴いて気持ちを落ち着かせていた──そう考えてしまうのは、あまりにロマンチック過ぎるだろうか。もうひとつ付け加えておくと、映画『あなたへ』は、死んだ妻を思い続ける男の物語なのである。
htmx.process($el));"
hx-trigger="click"
hx-target="#hx-like-count-post-23118472"
hx-vals='{"url":"https:\/\/jogjob.exblog.jp\/23118472\/","__csrf_value":"ad246764a10462d559e1b595ee6ed58dd0eec0970e89f66349da67b786fea8a242e7448a942715de02d6b60aaae8f94a26a0e9ef21a3a8111ca1cbd60f0f4b01"}'
role="button"
class="xbg-like-btn-icon">