6月6日の日記に、映画『いちご白書』(1970年)の主人公を演じた俳優ブルース・デイヴィスンについて、デビュー作は『去年の夏』(1969年)、次作が『ウイラード』(1971年)ということを書いた。『ウイラード』は上司から陰湿なイジメを受け続けている孤独な青年が、ある日一軒の空き家に棲み着く大量のネズミ出会うところから始まる物語。餌を与えているうちにネズミ達と意思疎通が出来るようになった主人公は、彼らを使って憎い上司に復讐を企てる。言わばサイコミステリー風味のあるサスペンス映画なのだが、若者の疎外感を描いているという点で、やはり当時のアメリカン・ニューシネマ、その本流と言えるだろう。劇中、彼が「ベン」と名付けて特に可愛がるネズミが登場するが、翌年、そのベンとやはり孤独な少年の交流を描いたその名も『ベン』という続編が作られる。こちらはマイケル・ジャクソンの唄う主題歌
「ベンのテーマ」が世界的にヒットしたこともあり話題になったが、『ウイラード』の方はどうだったのだろう? あまり多くの観客に支持されたという印象はない。
そしてデビュー作の『去年の夏』だが、監督は『泳ぐひと』のフランク・ペリー。原作は『暴力教室』『逢う時はいつも他人』で知られるエヴァン・ハンター、というより「87分署シリーズ」の作者エド・マクベイン、もうひとつのペンネーム、と言った方が早いだろう。そして音楽はザ・バンドのプロデューサーとして知られるジョン・サイモンというなかなかの布陣だが、この作品も歴史の中に埋もれているという印象が強い。写真はその原作本(左・角川文庫)だが、Amazon.co.jpのマーケット・プレイスを検索してもタイトルすら出て来ない。これは相当めずらしいケースだと思う。よほど世に出廻った部数が少なくて今では誰も持っていないのか、あるいは僕のように愛着が強すぎて手放さないのか? 右の四六判ソフトカバー『冬が来れば』(早川書房)は続編だが、こちらに関しては言わずもがな、である。
ネットで調べてみると映画『去年の夏』は公開時にはそこそこ評判にはなったものの、その後日本ではリバイバル上映もされず、ビデオソフト化、DVD化も一度としてされていないらしい。ふむ、そうだった。確か僕も映画を観たくて名画座にかかるのを待ったのだが叶わず、それで原作本を買って読んだのだと思う。避暑地の海岸で出会ったティーンエイジャーの少年二人と一人の少女。三人は微妙なバランスで関係を作るのだが、そこにもう一人、地味でぱっとしない女の子が現れ、物語は残酷な方向へ進んでいくという、胸に残る青春小説である。