延々と続いているアンケート取材の仕事も、やっと回答が9割方戻って来た。しかし戻してもらったらもらったで、今度は疑問点と確認しなければならないことが次々と生まれ、また電話をかけまくることになる。我ながら呆れるほど慣れない。仕事中にもかかわらず相手に時間を割いて頂くということに、気疲れして仕方ない。そんなわけで今日も夕方になって先方が営業時間となり、電話取材が終了すると同時にソファーに倒れ込んだ。眠るつもりはなかったが微睡んだ。すると夢を見た。2008年にガンで亡くなった、親友のKが出て来た。僕らはKが昔住んでいた原宿の狭いアパートにいて、LPレコードを聴いていた。それだけの、とても短い夢だった。夜になって、何故彼の夢を見たのか理解した。昨日から是枝裕和監督の映画『そして父になる』が、カンヌ映画祭で審査員賞を受賞したというニュースが流れていたからだ。
Kは映画監督でありプロデューサーだった。あれは1997年、家で何気なくテレビを観ていたらカンヌ映画祭の授賞式が流れ、正装したKが突然映し出されて驚いた。第50回カンヌ国際映画祭でカメラ・ドール(新人監督賞)を受賞した、河瀬直美監督の『萌の朱雀』という作品だった。Kは河瀬さんともうひとりのプロデューサー、仙頭武則氏と共に授賞式に出席していたのだ。WOWOW製作のそういう作品に関わっているというのは何となく聞いていたが、それがカンヌに出品され、さらに賞を獲るなど考えも及ばなかった。その河瀬監督は今回コンペティション部門の審査員になり、『萌の朱雀』の主演で当時中学生だった尾野真千子さんは、『そして父になる』では母親役を演じている。
それにしても毎度のことだが、Kの夢を見るたび、彼がもうこの世界にいないことを思い知らされる。そして救いようがないほど寂しく、恐ろしいほど哀しくなる。おそらく知らず知らずのうちに僕らはただ最近ちょっと疎遠なだけで、彼は今でも何処かで映画を作り続けている──そう思い込んでいるからだろう。