ジムや買い物はなるべく午前中にすますのだが、今日は昼間取材のアポ取りがあったり、先方から電話がかかってくる可能性もあったので、陽が暮れてから出かけることにした。着替えたりウェアやシューズを準備する間にテレビを点ける。時計代わりである。NHK7時のニュースをやっている頃だろうと思ってそうしたのだが、たまたまチャンネルがTBSに合っていて、海外の辺鄙な地域に住んでいる日本人を訪ねるというバラエティ番組をやっていた。最近多いね、こういうの。千原せいじがリポーターやるのもあったけど、あれはテレ朝系だっけ? などと考え、NHKに変えようと思ったのだが、画面を見て手が止まった。茨城ゴールデンゴールズの片岡安祐美ちゃんが、サイパン近くにあるミクロネシアのロタ島という小さな南の島を訪ねる。そこには愛犬2匹とビーチに建てたテントに暮らし、一銭のお金も使わず生活している女性がいた。
テロップには(47才)と出るが、その年齢には似つかわしくない引き締まったスポーティな身体。何よりそんな生活だから日焼けして、当然化粧のたぐいは一切していないのだがとてもきれいな人だ。島中の人から「ケイコ」と呼ばれ親しまれている彼女は、今まで47の職業に就き、世界各国で暮らして来たが、やっと安住の地をこのロタ島に見つけたと語る。普段は何をしているかというと、タイで本格的なマッサージ技術と免許を取得しているので、現地のお宅を訪問しそこの奥さんにアロマ・マッサージをしたり、時には別の家庭を訪ね日本食をふるまう。すべて無償である。その代わり地元の人が「これ、食べたら?」とお芋を持って来てくれたりする。「へー、面白い人だなあ。それに美人だし」とテレビを消そうとリモコンを手にした時にやっと気付いた、「ケイコ」さんって、あのケイコさんじゃないか!
僕とケイコさんはインタビュー取材を通じて知り合った。原稿のアーカイヴを調べてみると2001年の冬だ。共通の友人が複数いたので、その後何度かお酒も飲みにいったりした。現在47才ということは小泉今日子、というよりも『あまちゃん』のママ・春子さんと同い年である。ケイコさんも小学校高学年の頃からアイドルに憧れ、オーデイションを受けまくる少女だった。けれど審査員として出会った平尾昌晃さんから「唄というのは色んな経験をしてないと唄えないんだよ」と言われたことをきっかけに、劇団に入りお芝居の勉強をした。そして15才の時に昼の帯ドラマにてヒロインの娘役でデビュー。80年代高校生になってからは、かの萩本欽一さんのバラエティ番組にもレギュラー出演した。しかし今日の番組ではその辺りの経歴には一切触れていないようだった。片岡安祐美ちゃんと言えば、やはり欽ちゃんとは浅からぬ関係であるにも関わらず、である(最後まで観なかったので判らないが)。
思えば僕が知り合った頃から、そういった過去の芸能界での活躍も、ケイコさんにとっては通過地点というか、自分探し居場所探しの途中でしかなかったような印象があった。そうだ、インタビューの時だったかその後だったか、タレント時代の宣材写真を見せてもらったことがあった。そこには今よりずいぶんふっくらした頬っぺの、聖子ちゃんカットの八重歯の女の子がニッコリ笑っていた。今考えればまるで『あまちゃん』に登場する、2階の隠し部屋に貼ってあるピンナップのようだ。ケイコさんや春子さんたち、かつてのアイドル時代の女の子が、やっと自分の居場所を見つける時代が来たのかもしれない。