昨日の続き。
『ポップ・ヴォイス〜スーパースター163人の証言』は、目次を見るとジョージ・ハリスン、ジョン・フォガティ、デイヴィッド・ボウイ、クインシー・ジョーンズ、エルトン・ジョン、リチャード・カーペンターなどなど、そうそうたる名前が並んでいる中に、著者ジョウ・スミスの名も3回出て来る。つまりそこで東部のディスクジョッキーから西海岸のレコード制作者へと続く、彼自身の「自分語り」がなされていくわけだ。たとえばそんな中に昨日書いたイーグルスとのエピソードがあり、ページをめくると次にドン・ヘンリー、そしてグレン・フライのインタビューが続くというニクイ構成である。で、このドン・ヘンリーの話が実にいい。イーグルスのドラム奏者。ロックに詳しくない人でも、「ホテル・カリフォルニア」をあのしわがれ声で唄っている人、と言えば何となくイメージ出来るのではないか。
「LAに行って最初に行ったのがトルバドールでしたよ」と始まる。トルバドールとはロサンジェルスの有名なライヴハウス。ジェイムズ・テイラー、ジャクソン・ブラウン、リトル・フィート、ランディ・ニューマン他、西海岸を代表するアーティストが舞台に立った。日本人では泉谷しげるが1976年に、ここで録音した
『イーストからの熱い風』というライヴアルバムをリリースしている。ドン・ヘンリーはシャイローというバンドでテキサスからやって来たが、アルバムを1枚発表するもののまったく売れず、「何だか哀れな感じでね」と自嘲している。そこでグレン・フライと出会いビールを奢ってもらい、「俺のグループは何もしてない。メンバーの一人はフライング・ブリトー・ブラザーズに引き抜かれたし」と愚痴を言うと、グレンの方も「俺も相棒と別れたばかりだ」と語る。
ブリトー・ブラザーズに引き抜かれたというのはペダル・スティール・ギター奏者のアル・パーキンスで、グレン・フライの相棒とはJ.D.サウザーのことだろう。そこでグレンはこう切り出す。「リンダ・ロンシュタットの巡演に廻れば週100ドル出るんだ、やる気はないか?」と。そこで二人はアル・パーキンスと入れ替わりでフライング・ブリトー・ブラザーズを抜けたばかりのバーニー・レドンと、やはりポコを辞めたはかりのランディ・マイズナーに眼を付ける。やはり二人ともトルバドール周辺にいた若者だ。これがイーグルスとなる。あとはもうご存じの通り。彼らはスーパースターとなり大金持ちになる。その時代のエピソードがすごい。フリートウッド・マックの妖精、スティーヴィー・ニックスと恋仲になったドン・ヘンリーは、彼女を自身のツアー先に呼ぶ。
しかしマックはマックで、当時アルバム『噂〈Rumours〉』がメガヒットしていた頃だ。スティーヴィーも忙しく全米をツアー中だ。そこで二人はプライベート・ジェットをチャーターし、互いの公演先へ飛んで逢い引きを繰り返すのだ。ヘンリーはこう語る。「若くして大金を手にして有名になるということは、時に馬鹿げたこともしでかすということだよ」。名曲の
「ならず者〈Dedperado〉」は、その頃のことを唄ったものだとか。そして最後にこう言う。「人気が出るにつれて、イーグルス、ジャクソン・ブラウン、J.D.サウザー、リンダ・ロンシュタット、みんなばらばらになっていく感じでしたね。成功が我々を引き離したんです。青二才の時代は終わった」と。青二才の時代という言葉がすごくいいと思いませんか。心に染みる。原語では何と書いてあるのだろう? 〈Green age〉とか、そんな感じだろうか。