人間の耳というのは眠っていてもしっかり音を聴いているものですね。明け方、「あれ、雨はやんだのかな?」と思った。その後も起きられないままずっとベッドの中でうとうとしていたのだけど、そのうち「おかしいな、それにしても静か過ぎるよな」と窓を見ると、ガラスが真っ白に凍りついていた。雪である。天気予報は外れた。関東は内陸部を除いて降らないと言っていた。それにしても、雪というのはすべての音を吸い取ってしまうのか、いや、吸収というよりは消去といった方が似合うような気がする。作詞家の松本隆さんに「冬の機関車に乗って」という一文がある。
『風のくわるてつと』というエッセイ集に入っている。松本さんはいうまでもなくロックバンド、はっぴいえんどのメンバーだったわけだが、その当時のものだ。僕の記憶によれば、シンコー・ミュージックから出ていた『ヤング・ギター』という音楽誌に掲載された。

青森へのコンサート・ツアーの帰り、列車の中での情景が描かれている。語り手である「彼」はロックバンドのドラマーで、マネージャーでもある友人と二人、窓の外に続く雪景色を眺めながら会話をする。「友人」とははっぴいえんど5人目のメンバーと呼ばれた石浦信三氏だろう。ファーストアルバム『はっぴいえんど』(通称「ゆでめん」と呼ばれる)、セカンド『風街ろまん』の歌詞カード、あの印象的な文字を書いた人だ。石浦さんは元学生運動の活動家で、あの字はガリ版や立て看板に使う、いわゆるアジ文字(アジテーション文字)であるらしい。それはともかく、そこで二人はこんな言葉を交わす。往きに見た緑の草原は、すっかり白く塗られていた。「これだけ白くするのにペンキ屋に頼んだら、莫大な費用がかかるだろうな」と呟く「彼」に、友人は「塗るという感じじゃないね。消去するという感じだよ」と答える。
二人が語り合っているのは食堂車だ。やがて席に戻ると、さっきまでトランプに興じていた残りのメンバー3人は眠っている。そこで「彼」は去年のコンサート・ツアーを思い出す。同じように雪国からの帰り道、それまで書きあぐねていた詩が突然湧いて来て、食堂車の紙ナプキンに一気に書きとめた。上野駅に着くと恋人が迎えに来ていた。しかし今年は来ないだろう、何故なら二人はこの5月に結婚したから。彼女は今、二人の住むアパートで「彼」の帰りを待っている。そして思う「誰もいないプラットホームには風も吹かないだろう」と。紙ナプキンになぐり書きされた詩は、バンドのヴォーカルの友人(もちろん大滝詠一さんのこと)によって曲がつけられた。『風街ろまん』の一曲目を飾る、
「抱きしめたい」である。
※写真は今朝午前10時過ぎ。仕事場の窓より。data:ニコンD70、AF-S DX Zoom Nikkor ED 18-55mm F3.5-5.6G。ISO・200。
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