東京は日中、初夏のような暖かさだった。26度あったという。しかしこれを書いている現在、夜の11時過ぎ、外では冷たい北風が吹いている。いわゆる木枯らし1号らしい。今日はAmazon.co.jpで注文しておいた
便座カバーが届いたので付けてみた。安物だが、さすがに新品はふかふかである。630円で買えるシアワセ(笑)。これでまた、トイレに座って本や雑誌をパラパラやるのが楽しくなった。何気なく去年の今頃は何をしていたんだっけ? とiPhoto(Macの写真加工・整理ソフト)を見ていて、そうか、
『代々木忠 虚実皮膜〜AVドキュメンタリーの映像世界』(キネマ旬報社)の企画に動いていたんだ、と思い出した。
石岡正人監督のドキュメンタリー映画
『YOYOCHU SEXと代々木忠の世界』の公開に合わせることが出来ればという条件付きで、版元さんからのGOが出たのが10月の半ば。そして代々木監督ご本人へのインタビューのお願いのため、編集Tくん、キネ旬のSさんと共に、渋谷にあるアテナ映像へと出向いたのが10月19日。以前より面識のあった同社ゼネラルマネージャーO氏は、「良かったですね、企画が通って」と笑顔でおっしゃってくれたのだが、こちらの予定を伝えた瞬間、表情が曇った。僕らは最低でも2日、長時間の取材がしたかった。けれど、監督の年末までのスケジュールが立て込み過ぎていた。やはり誰もが考えることは同じで、石岡監督の映画に合わせ、既に2冊の単行本が進んでいたのだ。
代々木忠という人は、簡単なインタビューであっても、事前にテーマが与えられればご自身の作品を見直し、細かいメモを準備して臨まれるという。いや、そもそもこちらがお願いしたい取材もまさに、深い所までお聞きしたかった。そういった企画が3本同時進行、もちろんそれ以外に、ご自身のAV作品の撮影、編集、女優さんの面接等々もある。あまりに時間的余裕がなさ過ぎた。O氏の見立てでは、「取り敢えず代々木にこういう話が来ていると投げてみますが、おそらく90パーセント無理でしょう」とのことだった。帰りにTくん、Sさんと取り壊された東急文化会館横のタイ料理屋でご飯を食べ、別れてからひとり、絶望的な気分で井の頭線に乗ったのをよく憶えている。
そもそも企画が出版社を通るのに半年以上かかっている。それが映画とタイアップ出来るという条件でやっとOKが出たのだ。このタイミングを逃したら、自分には代々木忠という稀代の才能について一冊の本を書く機会を永遠に失うだろう、そう思った。しかしまさに急転直下、数日後にOKが出た。しかも取材は3日間取ってもらえるという。すべて、代々木監督が愛弟子とも言える石岡さんの映画を応援したい、我々の作る本はその本の後押しになるはずだという配慮からだった。元々、僕は自分が運のいい男だと思っている。仕事がなくて、さあ生活費をどうしようと思っていると、不思議なことに依頼が舞い込む。けれど、あの時ほど強運を感じたことはない。しかし考えてみれば今も変わらない。ひとつの書き下ろしが終わり、次の企画は一切決まっていない。そろそろ年末が見えてきた。無事年が越せるのだろうか? 綱渡りのような人生だが、まあ何とかなるか、と思ったりしている。
※写真はその昨年10月19日。渋谷駅東口、明治通りを跨ぐ歩道橋の上から、渋谷川を写す。data:ニコンD70、AF-S DX Zoom Nikkor ED 18-55mm F3.5-5.6G。ISO・200。