5時少し前に眼が覚める。3時間ほどしか寝てないが、このまま起きて走りに出ることにする。暗い部屋の中でストレッチをし、5時45分、ようやく明るくなってきた頃に外へ。ジョギング・コースは、その日によって微妙に変える。今朝は早く起きたこともあり、いつもより少し長く走ろうと公園の外れ、サイクリング・ロードの先まで大廻りしてみた。すると普段はほとんど人気の無い、暗い森になっている付近に、今日に限ってウォーキングの人や犬を連れた人がたくさんいる。しかもこんな朝早く。そこでハッと気づいた。昨日から報道されている、19才の少年が44才の交際女性を刺してしまったという事件、あの現場はこの公園なのだ。
規制線が張られ、警察車両らしきワゴンが停まり、ワイドショーの撮影隊だろう、TVカメラと三脚も見える。その様子を見ながら迂回し、2時間と少し走って部屋に戻る。テレビを点けてみると、羽鳥さんと赤江玉緒ちゃんの『モーニング・バード』で、ちょうどその話題をやっていた。中継も出て、井口レポーターが写った。そうか、あれはテレ朝のクルーだったのか。男女の年齢差があることから、謎を呼んで今日もまた報道しているようだ。女性が長い間病気に苦しんでいて、少年が「楽にしてあげたい」と思い刺したとか、「一緒に死んで欲しい」と言われたが死にきれなかったとか、現時点ではそのようなことであるらしい。
ここまで書いて、拙著
『猫の神様』を読まれた方はもうお気づきかもしれない。そこは18年前僕が相棒達と出会った、すぐ近くである。あの日も長く走ろうと思って大廻りしたから、ゴミ箱の下でニャーニャー鳴いている仔猫の声に気づいたのだ。そして終日雨が降っていたこともあり、彼らは夜中になるまで誰にも保護されず、僕が行くまで鳴き続けたのだ。運命とは、踏切の手前で立ち眩みを起こすようなものだ。線路の上に倒れるか、手前に倒れるかで生死が分かれる。実は昨日も走った。報道によれば少年が彼女を刺した後、自ら110番したのはお昼前だったらしい。もしも僕がその時間にジョギングをして、しかも今朝と同じコースを取れば、事件は起きなかったかもしれない。
「早まるな、死ぬのはやめなさい!」なんて忠告することはもちろんしなかったろうし、だいいちそんな状況にあることすら判らなかったはずだ。ただ、誰かがジョギングで通りかかれば、彼は刺すことを、彼女は死ぬことを躊躇したかもしれない。そして「ここは人が通るので、場所を変えよう」と歩いているうちに、死のうとすることに疲れ、やはりもう少し生きてみようかということになっていたかもしれない。『モーニング・バード』では、彼らは出会い系サイトで知り合ったと伝えられた。二人は恐ろしいほどに、孤独だったのかもしれない。けれど運命が踏切の手前に倒れさえすれば、幸せに向かえた可能性もあったはずだ。あの夜雨の中で、僕が二匹の仔猫に出会えたように。