原稿書きに疲れ、椅子から立ち上がって背伸びをした時、ふと本棚に刺さった中島らもさんの
『僕に踏まれた町と僕が踏まれた町』に眼が止まった。取ってページをめくりながらトイレへ行き、そのまま置いた。我が家はトイレにも本棚がある。僕は小の時も座って用を足すので、その度にぱらぱらとページをめくっている。想い出深い本だ。当時の僕は鬱病がひどくて、息を吸うのも苦しく、渋谷の街をよろよろと歩いていた時に、パルコブックセンターで見つけて買った。Amazon.co.jp のカスタマーレビューにも、「人生のどん底に落ちてたときに読んだ一冊」「自殺した友人に宛てたお叱りの文章のようなものがありますが、これを読んで思わず泣きそうになりました」という感想がある。
とは言え、決して重苦しい内容ではない。あとがきによれば、朝日新聞社の播但サービス紙「A+1」に連載された、とある。一篇が400字詰め原稿用紙約3枚ほどの、短いエッセイ集である。主に自らの青春時代に振り返ったものであり、連続飲酒で肝硬変になる件もあるが、実にらもさんらしい、過去の自分をからかうような、乾いた笑いでコーティングされた文章だ。ただ、時期的には後に傑作
『今夜、すべてのバーで』の元になる入院生活直後に書かれたものであり、当時の心の有り様が、読む者の精神の深く哀しい部分を刺激するのだろう。そんなことを考えていて、亡くなったのは52才だったのか、と気づく。現在の僕の年齢である。
※梅雨に入っても仲良し、お馴染み公園のコアラとパンダ。5月27日撮影。data:ニコンD70、AF-S DX Zoom Nikkor ED 18-55mm F3.5-5.6G。ISO・800。