間違い電話って、最近あまりないと思いませんか? 番号はもうメモリーしておくもので、いちいちプッシュしてかける人なんていないからだろう。そもそも我が家の場合、家電はセールス以外ほとんど鳴らない。仕事関係はほぼ携帯だ。ところが今日久しぶりに家の電話が鳴った。夜の8時前くらいだろうか。取ると、「──メモリアルセンターさんでしょうか」と言う。男性、すごいおじいさんという印象は無かったが、でもそこそこ年配。70才は超えておられるだろうなという、落ち着いて礼儀正しい声だった。なのでこちらも「違うようですよ」と丁寧に言う。「×××の、×444」ではありませんか?」「いえ、違います」と答えると、先方は「それは失礼致しました」と切れた。
ところで、誰しもかつて一度や二度ならず間違い電話をしてしまった経験があると思うけれど、やたら不機嫌にキレる奴っていたよね。「違うよバカヤロウ、気をつけろッ」とか怒鳴られ受話器を叩きつけられる。あれって毎回思ったけど、そんなに怒るほどのものかね? 「もしもし」「違いますよ」「どうも」──発する言葉は多くても三つ。時間にして10秒ちょっと。そりゃあ間違えたコッチが悪いけどさ、見ず知らずの他人からバカ呼ばわりされるこたぁない。あと、道路で間違って一方通行に入っちゃった車と鉢合わせになって、相手にやたら高圧的に怒鳴ってる人も、けっこういませんか。
あれもよく判らない。僕が車の運転をしないからかもしれないが、あそこまで不愉快になるものなんだろうか。そりゃ何十台も連なって逆走して来たりしたら困るけどさ、普通は一台、それも曲がり角を車の鼻先ちょっと入れただけ。しかも相手は大抵運転初心者の、人の良さそうな中年女性だったりする。それでも窓を開けて「イッツーだよ、バカッ。ふざげんな!」とか怒鳴ってる。確かに交通規則に違反してるわけだから、例えば警察官が見つけて厳重注意するならともかく、何ンで一般人のオマエがそんなにエラソーに言えるわけ? なんて思う。そんなことはともかく、間違い電話の話である。
ほぼ間を置かず再びかかってきた。きっとさっきの人がまた間違っちゃったんだなと思って取る。こちらが「ハイ」と言うやいなや気がついたんだろう。受話器の向こうで息を呑むのが判った。なので、「やっぱり違うみたいですねー」と少し笑って言うと、「すみません、何度も申し訳ありません」と恐縮される。「ウチは×444じゃなくて、×464なんですよ」と念のため言って、その人は何度も謝りの言葉を言って切った。受話器を置き、iMacに向かって仕事を始めてふと気づいた。メモリアルセンターって、葬儀所じゃないのか? 仕事中ネットは常に繋いだままだから、何気なくGoogleの検索窓に〈メモリアルセンター〉と入れると、たまたま近所にあるJAがヒットした。
信用金庫や共済事業の他に、やはり斎場があった。電話番号も載っていて、下4桁は「×444」。もしかして、身内に急なご不幸があったのではないか──そんな、あまり良くない想像をした。声の感じ、年齢から察して奥さんが亡くなられたことも考えられる。そしてあの人は、とても動揺していたので、二度も間違った番号をプッシュしてしまったのではないか、と。