あれだけゲゲゲ、ゲゲゲと騒いでいたわりに、新しい朝の連ドラ『てっぱん』を毎日楽しみに観ております。こういうのはアレですね、最愛の妻に先立たれて涙にくれていた夫が、しばらくすると手のひらを返したように若い奥さんをもらい何食わぬ顔して幸せに暮らし始めると言いますか。ふむ、確かに若いです、ヒロインの瀧本美織ちゃん(←ソニー損保CM、ティアラのコですね)。なんと1991年生まれだとか。ともあれ最初は毎日15分のドラマを観るという、『ゲゲゲの女房』時代の習慣から、たいして期待もせずにHDD録画しておいた。
しかしその第一回、ヒロイン一家・夏の夕食風景。庭に鉄工所を経営するお父さん(遠藤憲一)自作の鉄板を出し、家族揃って広島風お好み焼き焼いて楽しげに食べるという、その場面にヤラれてしまった。うっ、うっ、うっ、家族ってイイなあ(涙)と、つくづくそう思ってしまったのですね。しかしまあ、おそらくこれこそが正統的なNHK朝の連続ドラマなのだろう。まず、ロケシーンが多く技術的にも卓越していて充実している。特に一週目は尾道の美しい風景がふんだんに登場した。それに比べると、昭和30年代のエピソードが中心だったので現実問題としてロケは無理だったのだろうが、おそらく95%以上がスタジオ収録だった『ゲゲゲ〜』は、今思うとまあ良くやったよなと思う。
『てっぱん』はさらにキャストが豪華だ。ヒロインの祖母・田中初音に富司純子、母親に安田成美はともかく、大阪のエピソードには赤井英和から川中美幸といったビッグネームが今のところさほど重要とは思えない役で登場する(後で書くが、おそらくそれも伏線のひとつであろう)。平岩紙や柄本佑といった若手のカルト俳優起用が功を奏した『ゲゲゲ〜』とは、気合いの入り方(お金=ギャラの使い方?)が違う。シナリオも半年間の長丁場を意識してだろう、各所に「謎」が散りばめられている。そもそもヒロインあかり(瀧本美織)の実母・千春(木南晴夏)は何故、富司純子演じる母と仲違いし、尾道へと家出して来たのか? 第三週目に入った現在、あかりは大阪に出て、偶然から初音の営む下宿屋に暮らすことになるのだが、同居する下宿人がまた全員謎だらけである。
実業団の駅伝選手だという滝沢(長田成哉)は、格下のチームに配属されたというコンプレックス以外にも何か傷を抱えていそうだし、離婚したらしく幼い男の子と住む中岡(松尾諭)は明らかにワケアリで、自称・女優のジェシカ(ともさかりえ)は、ことあるごとに初音から「けったいな大阪弁使いなはんな」と言われている。つまりは何か人には言えない事情があって、大阪以外の場所から此処に移り住んでいるわけだ。そして何より、あかりの父親、つまり母・千春と恋仲だったのは誰なのか? その世代に属する登場人物は、今のところ前述の赤井英和と川中美幸しか登場していない。
それに比べ原作が実話であり、モデルの水木しげる・布枝夫妻が現在もお元気でおられる『ゲゲゲの女房』は、プロットの肝となる「謎」の作りようがなかった。故に脚本家の山本むつみは、毎回あざといほどの細かい伏線を張っていったのだとも言える。いや、そもそも先に書いた第一回の鉄板を囲むシーンを例に挙げるまでもなく、NHK朝ドラは家族愛が重要なテーマだ。にも関わらず二言目には「だらっ!(馬鹿者、の意)仕事のことに口だすな」と怒鳴る茂さん(向井理)を主人公に、よくまあ半年間楽しいホームドラマを作り上げたものだ(笑)。と、今更ながらにゲゲゲの実力を思い知るワケです。