6時半起床。雨が降っている。走るには強すぎる降りだが、明日以降はいよいよ〆切が押し迫って来てそんな暇も無くなりそうなので、レインウェアのフードを頭からすっぽり被ってjogに出る。思っていたよりも雨が冷たい。しかしそのぶん、公園にはジョガーはもちろん犬の散歩をする人の姿もなく、霧のように煙りひっそりと静まりかえる中を気持ち良く走ることが出来る。此処ひと月ほど、カーティス・メイフィールドやダニー・ハサウェイといったニュー・ソウルを聴いていたが、今日はやはりAmazon.co.jp で安物買いした(1,070円!)クロスビー、スティルス&ナッシュの
『DEMOS』をiPod Shuffleに入れる。
これはタイトル通り、1969年から1971年にかけて録音されたデモ・テープを集めたもの。プロデュースのクレジットはグレアム・ナッシュとジョエル・バーンスタイン。この二人が選曲したという意味だろう。ちなみにジョエル・バーンスタインはミュージシャンであり、CSN&Yのジャケット等を手がける写真家であり、またギターのテクニカル・スタッフでもある。主にバックステージでギターの弦高等を調節、正確なピッチで調弦してミュージャンをサポートする仕事だ。こちらの方面ではジョニ・ミッチェルからプリンスまで幅広く手がけている。
特に有名なのはボブ・ディランの76年のツアー、『ローリング・サンダー・レビュー』に同行したことだ。また、78年のライヴ・アルバム、『武道館〈Bob Dylan at Budokan〉』のジャケットを撮影したのはジョエル・バーンスタインである。この辺りの話はジョン ボールディ・編、 ヘッケル菅野・訳の
『ボブ・ディラン指名手配〜33の証言をもとに真実のボブディランを探る』という本に詳しく書かれている。さて、それはともかく『DEMOS』だけれど、69年から71年と言えばファースト・アルバムの『Crosby, Stills & Nash』から、ニール・ヤングが加わった『Deja Vu』、そしてそれぞれのファースト・ソロ・アルバムに当たる時期であり、それらのデモ・テープを集めたものだ。
1曲、クロスビーの『Long Time Gone』のみ、スティルスがギター、ベース、ドラムをオーバー・ダビングして、マルチ・プレイヤーぶりを見せているけれど、ほとんどがギター一本にヴォーカルのみ。そのぶんネイキッドで創作意欲のほとばしりのようなものをヒリヒリと感じる、実にリアルな録音になっている。言うまでもなく、スティーヴン・スティルスはバッファロー・スプリングフィールドを解散し、デヴィッド・クロスビーはバーズを、そしてグレアム・ナッシュはホリーズを脱退してこのスーパー・グループを作るわけだけれど、それは同時にポップ・スターからロック・アーティストへメタモルフォーゼする過程だった。
特にクロスビーは楽曲のテーマにドラッグを、ナッシュはセックスを持ち込んだことからバンドをほぼ解雇同然に追放されたという経緯がある。つまり此処には創作の自由を得た芸術家達の、羽ばたくようなエネルギーが凝縮されているわけだ。ところでこのアルバムにはナッシュがホリーズをクビになったその問題の曲、「スリープ・ソング」も入っている。しかし“君が眠ってる時、僕は君のオデコにキスしたんだ。そうしたら君は眉をしかめたから、もう一度キスしたよ”と始まるとてもロマンチックで美しいラブ・ソングで、これの何処がダメだったんだよ? と思う。まあそれだけホリーズというバンドが、「第2のビートルズ」と言われたアイドルだったということなのかもしれない。