眠い。昨夜、二度目の昼寝ならぬ夜寝から起きたのが午後9時過ぎ。それでも日付が変わる前にはベッドに入ってしまった。で、今朝。とにかく眠る。オレの身体は今眠ることを必要としているのだ──そう思いひたすら、寝る。ベッドの上だけでは何となく眠るのに飽きてしまうので、リビングのソファーに寝て、それに飽きるとベッドに戻り、しばらくしてまたソファーへ。そうやって眠り続けていると、久しぶりにみャ太の夢を見た。
僕は巨大な図書館にいる。そこにおいてあるのはすべて古い漫画だ。昭和30年代から40年代のもの。僕は仕事の資料として、野球マンガを探している。『ちかいの魔球』『黒い秘密兵器』『ミラクルA(エース)』、他にも見たことのない漫画がたくさんある。次々と出て来る珍しい資料に、夢中になって時間を忘れ没頭していると、いつの間にか足元の床に、みャ太がちょこんと座っていた。不思議なのだが、彼が夢に出て来る時、それは必ずぎじゅ太が死に、二人だけで暮らしていた頃の設定ばかりだ。二人っきりの、あの淋しい夏。
「そうか、お前は家に一人でいて淋しくてたまらないから、此処まで来てしまったのか。ごめんな」僕はそう言って彼を抱き上げ、床にあぐらをかいて座る。みャ太が仰向けになってお腹を見せるので、僕はそのふわふわした毛をかいてやる。すると気持ち良さそうな寝息を立てて眠り始めた。しばらくこうしていて、もう少ししたら一緒に帰ろうな──そう声に出さず呟いていると、背後から誰かが声をかけた。振り返ると一人の男の子が立っている。半ズボンに開襟シャツのボタンを首もとまできっちりと止めた、ぼっちゃん刈りの少年。昭和40年代くらいの、小学校4年生くらいか。
「そのネコは何故そんなに大人しくしているのだ?」彼はぞんざいな口調でそう言う。なんだこいつガキのくせに、むっとした僕は「それは彼が俺の家族だからだ」とぶっきらぼうに答える。すると少年は「つまりそのネコはおじさんの言うことを何でも聞くわけだな」と訊ねる。「違う。彼は自分のしたいことだけをする。俺は俺のしたいことをする。その二つが調和しているだけだ」そう僕が言うと、少年は顎に手をあて、まるで老人のように頷いてこう言った。「つまり、おじさんとネコはとても仲が良いということだね」と。僕は答える。「そうだ。俺たちは誰よりも仲が良い。今は、世界でたった二人きりの兄弟なんだ」。
眼が覚めると午後2時を廻っていた。この数日間、身体を覆い尽くしていた深い疲労はすっかり抜けていた。背伸びをして「よおし、仕事をするぞ」と言った。本格的な夏はもうすぐだ。