風邪が抜けません。変化があるとすれば、昨日は痛かった喉が今日は痒い。そのむず痒さがピークに達した時、咳が出る。コンコンコンと、音は軽い。しかし、そのたびにこめかみがジーンと痛む。子供の頃プールで泳いでいて水が鼻に入り、ツーンとしたあんな感じ。というわけで本日も朝からひたすら原稿書き。時々コンコンと咳き込んではパタパタとキーボードを叩く。夕方近くなって駅前まで外出。明日はメインで使っているクレジットカードの引き落とし日。先月慌てて買った冷蔵庫の請求ぶんがあるので、普通口座の残高では足りず、またもや貯蓄預金を崩し、移しておかなければならない。
銀行を出て、その足で駅のみどりの窓口へ。29日に名古屋方面へ取材小旅行があり、このままだと当日徹夜で朝まで原稿を書き、そのままあたふたと向かうという可能性もなきにしもあらずなので、往復の乗車券と往きの新幹線指定席だけ買っておくことにした。用紙に行き先や「のぞみ×××号」「禁煙」「窓側」等の記入をし、窓口へ行くと前でひとりの女性(推定30代半ば)がお財布を出し、これから現金での支払いをしようとしているところ。「やれやれ、あまり待たされずに買えそうだ」と思いつつフト彼女の足元を見ると、二つ折りになったお札が落ちている。一見して樋口一葉さん一枚に野口英世先生が二枚と判る。
人はその臨終の際、一瞬にして自分の人生を走馬燈のように見るというが、オレはその金を見て、拾ってネコババするや否や迷いつつ、走馬燈のように色んなコトを考えたね(涙)。前の女性は駅員さんとのやりとりで僕がかがんでお金拾っても気づかないだろう、とか。これから僕が購入しようとしているのは往復の乗車券と往きの新幹線指定席特急券。取材の終わる時間が未定なので復路は名古屋で買う予定。七千円あれば帰りの特急券が丸々浮くぞ、いや、あと千円と少し足せばグリーンにだって乗れる、とか。だいたい財布も無し、裸で拾ったお金届けたって誰が取りにくるんだよ──等々。
と、これらのことを、サッと札を拾い上げ、前の女性に「落としませんでしたか?」と訊ね、「いいえ、私じゃないです」との答えを聞くやいなや窓口に「コレ、そこ(足元を指差し)に落ちてました」と差し出し、駅員さんが「ハイ」と脇に寄せ、本来の公用金と別にした──その間僅か2.8秒(誰が計ったんだよ)の間に人間って考えるんですねー。で、次の瞬間さらにオレは思ったね。「どうよ、神様。今の見てた?」「オレ、良いことしたでしょ」「オレって、鉄の斧を湖に落とした木こり並みに正直者じゃない? どうよ」と。
僕の番が来て往復乗車券12,600円と指定席特急券片道4,490円也を支払い、「よーし、オレ今日は良いことしたもんね」「正直者に福来たる」「今日は絶対良いことあるもんね」と意気揚々と西友の地下食料品売り場に行くが、今日も「ポテトチップス・ガーリック〜国内産生じゃが・赤穂の天塩を使用しています(60g入り)」は売ってなかった。ガックリと肩を落とし、力無くコンコンと咳をしつつ家へと帰る。まあ、人生とはこんなもんです。レイ・チャールズも
「That Lucky Old Sun」の中でこう唄っている。“神様、あんたのいる所からじゃ高すぎて、俺の眼に溢れる涙なんて見えやしないんだろう──”と。