6時半起床。夕方から出かける用事があるので、ジョギングを自粛して午前中より仕事。5時前に何とか原稿を書き上げ外出。新宿にて古くからの友人で、元『噂の眞相』副編集長の川端幹人くんと会う。『週刊朝日』で宮崎哲弥さんと週刊誌時評対談「中吊り倶楽部」という連載をやっているので、知ってる人も多いかもしれない。元々は雑誌『論座』に連載されていたものが同じ企画のまま『週刊朝日』に移籍した。過去の連載は
『事件の真相!』、
『中吊り倶楽部 「メディアの辻説法師」と「業界の地獄耳」の高級時事漫談』という二冊の単行本になっている。
少し前、お世話になっている編集の方に川端くんを紹介して欲しいと頼まれた。そこで久しぶりに電話してみたところ、「ちょうど良かった。俺もトーラくんと組んでやりたい企画があったんだよ」ということになり、その編集さんと会う前にそちらの話を済ますことにした。紀伊国屋本店前で待ち合わせ。役者の火野正平似の女の子ウケするルックスで、荒木経惟から「水野正平」という安直なアダ名を付けられた青年も今や49才である。「オレは50になったよ」と僕は言い、「そうだよな、同級生だったよな俺達」と近況など話しつつ新宿の街を歩く。
川端幹人と初めて会ったのは23才の時だ。僕は代々木にあるエロ本専門の小さな編集プロダクションにいて、大学を出たばかりで右も左も判らずウロウロするしかなかった僕に比べ、学生時代からビニール本出版社に出入りし、マイナーな映画などにも関わっていた彼は、好奇心旺盛で面白そうなものに出会えそうな場所には何処へでも顔を出した。だから当時既に『噂の眞相』の副編集長──とは言え編集部は岡留安則氏と川端、そして経理の女性しかいなかったそうだが──ではあったのだが、僕のいた会社にしょっちゅう顔を出していた。「原稿書いてよ」と頼むと、本業で忙しいくせに「ああ、やるやる」と笑顔で引き受けてくれた。
「テーマは80年代だと思うんだよね」と川端くんは言う。僕らが組んでやってみようという仕事の話である。「今、出版でも何でもすべて商売とかマーケティングばかりでしょう? 金とか儲けとか何も考えず、面白いことだけをひたすら追求したあの時代だよ」と。場所は新宿武蔵野館の正面にある個室居酒屋。その裏側、今はヨドバシカメラになっている場所には、かつて「じゅらく」「しみず」という喫茶店があった。僕らエロ本編集者は撮影の朝、モデルやカメラマンとそこで待ち合わせた。新宿駅東口地下からの階段を上がると、吹きっさらしの風の中にいつも、Mさんという老マネージャーが立っていた。
Mさんは「じゅらく」「しみず」に入り浸り、珈琲一杯で何時間も居座り続けるので、ある時から出入り禁止になってしまったのだ。家出して来たり帰る場所の無い若い女の子に声をかけ、ヌードモデルに口説く。彼女達を撮影したポラロイド写真でショルダーバッグをパンパンにして、僕ら編集者を見つけると「イイコ、いるよ〜」と売り込むのだ。80年代──あの頃のことを考えようとすると、東口に吹き抜けたあの冷たい風と、Mさんのことを想い出す。