リストラの波が止まらない。ソニーの社長は1万6000人規模の人員削減に関して「長期化する需要減に対し、(現状の)人員を抱えて経営する体力はない」と語ったという。昨日だったかトヨタの経営者の会見をTVでちらっと見たが、金融不安と景気の低迷に、ただただ脅えきっているように見えて、前向きな方針など何一つ示せないようだった。社長、経営者と言ってもサラリーマンなので、自分の代で下手を打ちたくないという気持ちもあるのだろう。要は船が沈みかけているので、しがみついている派遣や期間労働者達を海に蹴り落としてでも自分は助かりたいわけだ。
企業というものは利益を追求するものである──としたり顔で言う人達がいる。だから目的のためには時に非情になるのだと。バカである。こういうインチキ・リアリストの言うことは一切信用してはいけない。会社が儲けを出すためにあるのは第一義の大前提だけで、だからと言って金儲けだけしていれば良いという話では、ない。例えば車を作って売るのであれば、安全性と利便性を追求し、それが結果社会を豊かにしていくことを考えねばならない。
売った後はアフター・サービスを徹底して顧客に喜んで貰うことを目的とする。都会はともかく、地方では車は必需品だ。機械に弱い女性やお年寄りも必ず自動車を使う。その場合、自動車メーカーというのは地域を活性化させる大きな鍵になるのだ。つまりそのように、企業というものには社会を変革し豊かにしていく力がある。何しろたくさんの人員がいて、効率的に動くように作られている。いざとなれば軍隊のようなトップダウンの命令系統も働く。災害があった時、メーカーが儲けを度外視して食料や寝具を提供するなんてことも出来る。議会制民主主義では絶対に不可能なことだ。
さて話は変わって、僕のようなフリーランスは、現在問題になっている派遣や期間従業員よりさらに下流だ。そもそも何の契約も無い。だから例えば出版社からの依頼で一年間かけて書き下ろしをしたとしても、「上の考えが変わりましたので」のひと言ですべてが終わる。文句は言えない。必ず出版しますなんていう、口約束すらしていないからだ。一方雑誌には連載というものがある。これは僕らフリーの人間にとって安定した定期収入になるのだが、これも時に一方的に切られる。こちらが持ち込んだ企画で評判が悪いというなら納得も出来るが、先方からの依頼で言われるまま淡々と進めていても、それでも出版社側の都合で断ち切られる。これもまた、不満を口にしたところで何ら改善の余地は無い。
愚痴を言いたいわけではない。それが自分の決めた生き方だからだ。ただ、大切なのはそうやっていると、物書きに限らずフリーの写真家、デザイナー、そういう人達が誰も出版社というものを信用しなくなるということだ。こういう時代だ、誰でも自分の作品はネットで発表出来る。出版社はただ金稼ぎのツールになる。音楽の世界はもっと進んでいて、実力のあるミュージシャンの作品はメジャーを通さずともAmazon.co.jp やタワーレコードが売ってくれる。海外のアーティストには、メジャーと契約しながらもインディーズのレーベルを持っている人も多い。彼らはレコード会社が押し付けて来る非芸術的な息苦しさを知り尽くしている。
今大手企業は人を切って生き延びているつもりでいるかもしれないが、一寸先は判らない。そうやって切られた人達は、景気が戻った時またその会社に雇って貰おうと思うだろうか? 誰もが企業なんて愛さずにありがたがりもせず、金稼ぎツールの一つにしか捉えない日が来るかもしれない。