8時起床。今日も寒い。モンベルのレインウェアとCW-Xのロングスパッツでjogに出る。霧のような細かい雨が降っている。ベック・ボガート & アピスの1972年のアルバム
『ライヴ・イン・ジャパン』と、71年のフリー『Free Live! 』を中心にした曲をiPod Shuffleに入れて走る。128分。毎年秋になると、この手のブリティッシュ・ハードロックが聴きたくなる。たぶんそれは高校生の頃の、文化祭の想い出と繋がっているからだと思う。夏が終わって新学期、放課後になると校舎の何処からか派手なエレキギターとドラムの音が聞こえてくる。同級生か先輩がバンドを組んで練習をしているのだ。特にあの“ジャッ、ジャッ、ジャーッ”というディープ・パープルの「スモーク・オン・ザ・ウォーター」は何度も耳にした。
僕は中学生の頃、日本で言えばはっぴいえんどとか遠藤賢司とか、海外ではクロスビー・スティルス・ナッシュ&ヤングのような、いわゆるアメリカ寄りの音楽しか聴いて来なかったから、ほとんどのブリティッシュ・ハードロックはレコードで聴く前に、そういう友達や先輩のバンドで知った。ディープ・パープルの他にはレッド・ツェッペリンとかユーライア・ヒープとか、ツイン・リードギターがとても詩的で美しいウィッシュボーン・アッシュなんてバンドもあった。
先に書いたフリーの、『Free Live! 』というアルバムは、以前にも書いたけれど、同級生にタナベ君というものすごくギターの上手い子がいて、彼が何処かで僕がベースギターを持っているという話を聞きつけたらしく、「トーラ、この中から何曲かやるからコピーしてきて」と渡された。アメリカン・ロックを聴き慣れた耳には、とても不思議な音楽という気がした。ディープ・パープルの「スモーク・オン・ザ・ウォーター」もそうだけれど、ギターがコード・カッティングというものをあまりやらず、短音もしくは復音でいわゆる“リフ”というものを作り、それが基本になって曲が組み立てられていく。
それは、元々黒人達がつま弾いていたブルーズが発展していった過程で出来たものなのだが、当時はもちろん判っていなかった。山の中の高校だったが、文化祭で模擬ライヴハウスをやる時は窓を閉め切り、黒い模造紙で目張りをした教室で演奏した。外は涼しい秋の風が吹いているのに、その内側だけはまだ真夏──そんな季節の記憶が、ブリティッシュ・ハードロックのリズムに刻まれ、僕の身体には染みついている。