7時起床。空気の冷たい曇り空の下を105分走る。公園の梅は満開だ。花曇りという言葉があるけれど、曇り空の下に咲く花は何故あんなに美しいのだろう? 強い陽射しではなく、かすかな光を集めてゆるやかに輝いているように見える。もう、あと三週間もすれば桜が咲くのだ。そう思うと信じられない。などと考えつつ走っていると、もう早咲きのカンヒザクラは赤い花をつけていた。
昼から伊勢鱗太朗組AV台本のプロットを考える。去年から10本ほど続いているシリーズ。たいていは年上の女性に対する若い男の子の正当派のラブストーリーで、メーカーさんからお題を貰って内容を考える。予算が少ないから一日撮りだし凝ったことは出来ない。正直クリエイティヴな要素は少ないのだが、シーン数を抑え予定通り、予算通りキッチリ作れるドラマのシナリオを書くというのはそれなりにやりがいがある。
で、今回頂いたお題は〈タイムスリップ物〉。主人公が何故か突然過去に舞い戻ってしまい、密かに憧れていた叔母さんの若い頃に出会うというお話である。タイムスリップ物語は好きだ。ロバート・A・ハインラインの
『夏への扉』(
山下達郎の唄にもなってますね)は生涯ベストテンには確実に入る小説だし、小林信彦さんの
『イエスタデイ・ワンス・モア』も
『ミート・ザ・ビートルズ』も大好きな小説だ。好きな映画監督は? と訊かれたら
ロバート・ゼメキスと答えるし。
単純に主人公という異物が過去に入り込んでしまうワケだから色々と伏線を作れるので物語を考えるにはとても楽しい。主人公が持ち込んだモノで混乱も起こる。簡単な例をあげると最近発行された新札。過去に使えば当然ニセ札扱いされるし。と考えているうちに若い男の子なら当然ケータイは持ってタイムスリップしてしまうだろうと思いつく。だったら例えば主人公が脱出不可能で電話の無い場所に閉じ込められて、だけど携帯でヒロインに連絡を取るなんてトリックはどうだ! という我ながらサエたアイデアが湧いて、たまたま電話をくれた伊勢組制作プロデューサーの島ちゃんに少しコーフン気味に話す。
すると島ちゃんは電話の向こうですごく恐縮したように「エートですね」と言う。「あのぉ、携帯持ってても通じないと思うんですよ、当時はアンテナとかも無いワケだし」「……あっ」よほど僕が落胆したような声を出したのだろう、島ちゃんは「いやアノ、ファンタジーとしたらイイと思いますよ」と慰めてくれるのだが、やっぱりダメだ(涙)見てる人に「何だよ、こんなのウソじゃん」と思われたらドラマはもうオシマイである。基本的に作り物だからだ。たかがエロビデオでもそれは同じだ。イヤ、AVだからそこんトコをしっかり作らないとダメなんだ。ちょっとでも説得力の無い嘘があると、せっかくAV女優と男優が本気でセックスしても、それまでもが嘘臭く見えてしまう。それにしても、何の疑問も無く「携帯使える!」と信じて疑わなかった機械オンチなオレってどーよ?
後から島ちゃんがわざわざドコモに電話して確認してくれたところ、当時も証券マンとかが使っていたバカでかい携帯はあるにはあったしポケベルなんかもあったのだが、基本的にあの頃はアナログ回線であり、現在のデジタル回線用のケータイを持っていてもやはり使えないとのこと。やれやれ、イチから考え直しです。