冷たい雨の中を110分走る。この季節、雨が降ると公園にはめっきり人の姿が減る。誰にもすれ違わず走り続けていると、時間と空間の感覚が次第に遠のいていって、自分が生きているという実感がスッと消えていく。少し前に中央公論社の「中公クラシックス・シリーズ」から今西錦司の『生物の世界』が出されているいることを知り、例によってお風呂の中でちょっとずつ読んでいる。今西教授はその中で、「我々の世界は時間と空間によって成り立っている。もしもそれ以外の世界が存在したとしても、人間には理解出来ないだろう」というようなことを書いている。
時間と空間の無い世界──、それは例えばあの世とか霊界とかあちら側の世界と言ったものだろう。今西錦司は「遊行する思索者」と呼ばれ、登山家でありフィールド・ウォーカーであったことはよく知られている。ひょっとすると彼はそんな体力の限界へと向かう山行の中で、コチラではないあっちの世界を肌の向こう側にとてもリアルに感じたのではないか。だから逆説的に、そういった世界があったとしても我々には理解出来ないだろうと発想したのではないか──。そんなことを考えながら走っていると、公園内にある博物館の警備の人と眼が会った。明らかに「このクソ寒いのに物好きな人だなあ」とあきれ顔だった。
ところで「中公クラシックス」は新書版のソフトカバー。軽いのでバスタブの中でも読みやすく、字も大きいのでオジサン世代には嬉しい本です。巻末の概刊広告によるとレヴィ=ストロースの『悲しき熱帯』上下巻も出ているとのこと。次はこれを読もうかなと嬉しくなる。