久しぶりに明るくなるまで寝た。それも9時。起きてみてイヤハヤこの2時間、3時間で部屋の中が段違いに暖かくなっているのに驚く。本日jogはお休み、夕方からジムに行く予定。で、今日から少しずつ部屋の掃除をしていくつもり。今日は手始めに窓のブラインド拭いた。普段は静電気でホコリを取る化学モップみたいなヤツでサッサと払うだけだが、本日は羽(と言うのかなアレは?)を一枚一枚雑巾で丁寧に拭いていく。
ブラインドが好きだ。26才の時初めてマンション──という言い方はイヤなのだが、要は鉄筋の建物──に住んだ時、まず最初にブラインドを付けたいと思った。窓がひとつしかない小さな部屋だったので、既成のサイズのものを買った。嬉しかった。30才の時、今の前の部屋に引っ越した時、窓が4面、それも変則的な大きさだったから、東急ハンズで少し頑張ってタチカワブラインドのオーダーで頼んだ。8万円ほどかかった。僕にしてみれば高い買物だった。ワインレッドの落ち着いた色で、陽当たりの悪い部屋ではあったのだが、西陽が入ると白い壁がほんのりと赤く染まってキレイだった。
みャ太ぎじゅと暮らし始めたのがその部屋だ。あれは確か98年の夏だった。ぎじゅ太が尻尾をブラインドに絡ませてしまったことがあった。みャ太もそうだったのだが、ぎじゅは尻尾の先がさらに複雑に曲がっていた。それが羽を繋いでいるヒモの部分に絡まって取れなくなってしまったのだ。アイツは本当にドジなネコだった。ぎじゅは痛いものだから飛んで逃げようとするのだが、そんなことをしたら尻尾が抜けてしまう──、いやそこまでいかなくとも付け根のところをひどく痛めてしまうのは確実だった。
猫の尻尾付け根というのは人間の背骨と同じで、重要な神経が集中してると聞いたことがあった。だから背中を強打した人が半身不随になってしまったりするように、歩けなくなったりしたらと思うので抱きかかえながら取ってやろうとするのだが、これが予想以上に複雑に絡まり合って上手くいかない。その間もぎじゅは痛いもんだから暴れて引っ掻く。もうこれはブラインドを切るしかないなと思った。しかし、切ろうにもハサミが手の届く所にない。それは約1メートルほど離れたテーブルの上の、ペン立てに刺さっていた。
思いっきり手を伸ばしてもほんの数10センチ届かない。「ぎじゅ、ちょっとだけ、ちょっとだけ大人しくしてろ」と置く。そこがビデオなんかを入れたラックの上。床まで約80センチ。しかしこのバカネコは手を離すやいなやジャンプしようとする。それをまた抱きかかえて絶望的な気分になった。ただその時、ラックの下にある小物入れの引き出しに、裁ちバサミが入っていたような気がした。いつ何でそんなモノを買ったのかも忘れていた。でも、確かに入れた記憶がある。痛がって暴れるぎじゅを抱いて腕をガリガリ引っ掻かれながら引き出しを開けた。果たしてそれはあった。尻尾が絡まっているブラインドを羽ごと15センチくらい両端を切った。ぎじゅは尻尾にブラインドの切れっ端を絡ませたままベッドの下へ脱兎の如く駆け込んでいった。
そんなことを思い出しながらブラインドを拭いた。一枚一枚、上から下まで。あの時、手の届くところにハサミが入っていなかったらどうなっていたのだろうと今でも思う。この家に引っ越してきてからはずっと長い間ブラインドを付けるぺきかどうか迷っていた。ぎじゅがまた尻尾を引っかけてしまったら、それも僕がいる時ならまだしも、留守だったら、そう考えるとなかなか判断がつかなかった。
この部屋には山吹色というのだろうか、少し濃い黄色のブラインドが付いている。ぎじゅ太が死んでしばらくして買った。前の部屋より陽当たりが良いから、付けるならこの色にしようとずっと決めていた。陽が射すと部屋全体がふわっと薄黄色に染まるのがとても落ち着く。そして今はネコ達がいなくなった空間を、穏やかに黄色く染めている。