昨日の続き。
2011年5月6日の日記に書いたように、『夢どれい2〜真夜中の性宴』という作品は、団鬼六先生が横浜に建てた豪邸の落成記念パーティがモチーフになっている。物語のヒロインはなぜかそこに参加する招待状を受け取り、理由もわからぬままなぜか心惹かれ出かけてゆく。そしていつの間にか鬼六邸の地下室に彷徨い込んでしまうのだが、そこは官能と被虐の異空間であった──という展開。はたしてそれは彼女の「夢」なのか密かに抱いていた「願望」なのか? というのがタイトルの意味なのだが、ともあれ地下の「異空間」を小平市「愛国工業」跡地で撮影したわけだ。だから都内でも一部撮影したし、横浜のお宅にもお邪魔したのだが(団先生に特別出演してもらった)、やはりメインは真冬の巨大廃墟となる。
撮影の数時前に徹夜でシナリオを書き上げ、その足でロケハンへ向かった。通常なら助監督が車で連れて行ってくれるのだが、なぜかその日はひとりで電車に乗った。今考えればJR中央線の特別快速から新宿から国分寺までわずか21分、そこから2駅だからその行き方が近いのだが、あまりよく考えずに西武新宿線で行った。しかも睡眠不足でボーッとしていたのだろう、急行で萩山まで行けばいいところを各停に乗った。だからいつまで経っても着かない気がした。たどり着いた青梅街道駅は単線の、ホームは田舎の無人駅ような真冬の吹きっさらしで、「地の果てのようだ」と思ったのはそのときだ。
書いてるうちに思い出してきた。3日の撮影期間。初日は午前中に横浜の団邸へ行き、午後に東京に戻り青山墓地近くで陽のあるうちに外撮りをして、神宮前にあったスタイリストさんのマンションを借りて夜中まで室内の撮影をした。そして2日目と3日目が「愛国工業」だったのだ。しかし、そもそも60分の本格的なドラマを3日で撮ろうというのに無理があった。だから全日早朝から撮影を始め、終わるのは「天辺越え」と呼ばれる午前0時過ぎとなった。スタッフは自宅に戻るか会社に泊まるが、「女優さん二人はヘアメイクが必要なのでホテルを取りました。つきましては監督とカメラマンのSさんもついでにどうぞ」と助監督が言った。
「ホテル?」と思わず聞き返した。こんな地の果てみたいな場所にホテルなんてあるのかよと。ところが助監督はしっかり、現場から車で5分たらずのところにビジネスホテルを見つけてきた。どうやって探したのだろうか。インターネットなど影も形も無い時代である。そもそも西武多摩湖線・青梅街道駅近辺なんて場所に、なぜビジネスホテルが存在したのだろう。ラブホテルならまだしも、誰が何の目的で泊まるのだ? ともあれ、僕はそのSさんというピンク映画時代からのベテランカメラマン氏と同じ部屋に泊まり、酒好きのS氏とビールなど飲みつつ翌日のカット割りなどを打ち合わせした。と言うか、新人監督だった僕がSさんに教えを乞うたと言った方が正しい。
ところでその「ビジネスホテル一茶」というホテルは、実は現在も存在し営業中である。HPの「支配人挨拶」によれば、<1月2月は市内、隣市の学校の受験の際にお泊りいただく受験生の方><4月5月は近隣企業様の新入社員研修><季節を問わず学生様の対外試合や遠征など>とある。シングルは(バストイレ付)で¥6,480。朝食(和食)はわずか¥250だという。そうだまた思い出した。2時間ほどしか眠れず睡眠不足で食欲など一切なかったが、Sさんと二人ご飯とみそ汁と生玉子と海苔なんていう、簡素な朝メシを無理矢理つめ込んだ記憶がある。必要なんて何もないのだが、今またもう一度泊ってみたい気もする。
※写真は『夢どれい2〜真夜中の性宴』(1988年作品)より。青山陸橋にて、松原久美子。主演は赤坂の元芸妓だったという水島麗子(別名・石原めぐみ)という女優で、彼女は助演だっだが、魅力的な娘だった。data:iPhone6 #instaplus #Normal #503CW