中野で劇団員の若い女性が殺害された事件で、同じマンションに住む住人が数回、不審な物音や女性の悲鳴を聞いていたと報道されている。この部屋に引っ越してもうすぐ一年、そろそろ書いてもいい頃だと思うので、前のマンションに住んでいたときの話を──暮らし始めて2、3年経った頃だろうか。ある夜、女性の叫び声を聞いた。それがまあ見事な悲鳴というか、お笑い芸人のぐっさん(山口智充)がやる、アメリカのホラー映画のモノマネがありますよね。女の人がシャワーを浴びている、外で飼い犬が吠えている声がする。「静かにしなさい」と注意する彼女。すると急に犬の鳴き声がやむ。不審に思ってシャワーカーテンを開ける。するとそこにはチェーンソーを持ったジェイソンが。そして悲鳴。文字にして書くと、「キャアァァァァァーッ!(←残響音付き)」てな感じ。
そんな悲鳴が聞こえた。ブライアン・デ・パルマの名作『ミッドナイトクロス』の主人公(ジョン・トラボルタ)はB級ホラー映画専門の音響マンだが、ラストにナンシー・アレン演じるヒロインの本物の悲鳴を使う。そして監督に「うん、いい悲鳴だ」と誉められるという皮肉なエンディングだったが、その時聞こえたのも、まさに「いい悲鳴」でありました。だから正直、そのときは住人の誰かがその手の映画を大きな音量で観ているのかと思っていた。そのくらい完璧な悲鳴だったワケです。ところが、その後2、3ヶ月に1度くらい聞こえるようになった。さすがに気になった。そしてある日、たぶん今頃か初夏、真夏ではないがどの部屋も窓を開けることが多い季節だったと思う。夜の11時頃、ベランダで洗濯物を干しているとした、例の「いい悲鳴が」。「キャアァァァァァーッ!」
しかもそれは隣の部屋から聞こえたのだ。思わず耳をそばだてた。犯罪だったらどうしよう? たとえ犯罪未満であっても、女性がDV被害を受けている可能性もある。ならば警察に電話するべきか、いや、今すぐ勇気を出してチャイムを押し、無理矢理にでも突入して止めるべきか? 焦ってそう考えを巡らせていると再び「キャアァァァァァーッ!」。同時にドンドンドンッと足で床を踏みしめ叩いているような音も。続いて聞こえてきたのが女性の声は、「アナタはどうしてアタシと一緒にお風呂に入ってくれないのよーッ!」でありました。それ以降もやはり2、3ヶ月に1度くらい、同様の声がした。パターンはすべて同じ。まずは「キャアァァァァァーッ!」といい悲鳴があって、足をジタバタ、ドンドンと床を踏みならして女性の声。「お風呂一緒に入ってよーッ」とか「どうして一緒に寝てくれないのーッ」とか、「優しく抱っこしてよーッ」なんてのもあった。そのたびにワタクシが「どうでもエエわ」と、力なく関西弁で呟いたのは言うまでもありません。
お隣だから当然、外廊下や階段ですれ違い挨拶を交わした。奥さんは年の頃なら30代半ば。細身で眼鏡をかけ、長い髪ですこし猫背な感じの、どちらかというと地味なタイプの女性。ご主人も細身で眼鏡に長身、物静かな理科系男子という雰囲気の30代。多くの住人が2、3年で引っ越していくという入れ替わりの多いマンションでしたが、お隣ご夫婦は10年以上は住んでいた。今もおそらく、仲良く暮らしておられると思う。どうぞお幸せに(>_<)。
※写真はまたもや「夏がまだ元気だった頃」シリーズ。8月11日。やはり麹町界隈。この辺りはおそらく外国人向けであったのだろう、東京オリンピック前後に建てられたとおぼしき古きよきマンションが多い。そんな一棟の駐車場。わたせせいぞう的な風景(^o^)。data:iPhone6 #instaplus #Normal #Comic