さて、いよいよ生まれて初めて買った一眼レフ、ニコンFAのお話であります。この日記では何度も書いているが、編集者をしていた二〇代の半ば、僕には二人のカメラマンの相棒がいた。
杉本健一くんと
江崎哲朗くんである。最初に一緒に仕事をし始めたのが杉本っちゃん。彼がニコン派であった。既にその頃最高機種であるニコンF3を持っていたかどうか記憶が曖昧だが、ニッコール24mmのレンズが付いていたことだけは確かだ。ファインダーを覗かせてもらった時、「ああ、これは映画のスクリーンのようだ」と思った。つまりカメラというものは手にしているだけで、日常生活すべてが映画になってしまう、それほど感動的な、夢の機械なのだと知った。それであまり何も考えず、買うならニコンにしようと決めた。F3にしなかったのはもちろん予算の問題もあるし、いくら何でもプロ級のカメラは必要無いという判断だったと思う。
そして、江崎哲朗である。この人は写真自体と同様、実にマニア的に機械としてのカメラが好きな人で、「トーラ、オレが付き合って全部見立ててやるから、一緒に買いに行こうぜ!」と、ヨドバシカメラまで連れて行ってくれたのだ(しかも本人はキャノン派にも関わらず!)。何しろ高い買い物だ。江崎ちゃんがいなければ、物怖じしやすい性格の僕が、一眼レフなど一人で買えたとは絶対に思えない(涙)。レンズも、「高いけど絶対コレにした方がいい。一生の買い物だから」と、広角の24mmはf2.0、望遠85mmはf1.4の明るい、ニッコールの中でも名器と誉れ高いものを強く勧めてくれた。そしてこれはまさにアタリだった。特に今デジタルのニコンD70に〈18-55mm F3.5-5.6G〉という安価だがそのぶん暗いレンズを付けていると、この〈f2.0〉〈f1.4〉というレンズの素晴らしさがひしひしと判る。
しかも残念ながらFAのボディは壊れてしまったが、レンズは健在である。幸運なことにニコンはデジタルであってもマニュアル・フォーカスのレンズをマウントすることが出来る。だから文字通り死ぬまで使い続けられる。まさに江崎ちゃんの言った通り、「一生の買い物」だったのだ。で、再び杉本健一である。僕が一眼レフを買ったのを知ると、「トーラさん、特写(撮り下ろしの撮影のこと)やりましょうよ。ボクがアシスタントやりますから」と言って撮影場所の設定から車の運転、レフ板持ち、撮影のサジェスチョンまで全部やってくれた。その時撮った写真がコレである。この二人がいなければ、今もこうして写真を撮ってネットにアップしたりしていないだろう。結局のところカメラというものを通して一生の友達を得たということが、いちばんの幸せなのかもしれない。
※写真は1986年6月撮影。モデルはAV女優だった宮口あや子ちゃん。場所はやはり杉本ちゃんが「ココは光がイイですよ」と連れて行ってくれた、山の手通り中野と新宿の間にある神社にて。このカットは確か2ポーズ目くらいだと記憶している。つまり僕の写真の腕前は、30年経っても少しも変わっていないのである(>_<)。data:ニコンFA、ニッコール85mmf1.4、フィルム・Ilford XP1 400。