関西から帰って来てからというもの、だらだらと寝てばかりいる。夢を見た。昔お世話になった、僕のライターとしての師匠のような存在であるO氏が出て来た。彼は「アテナ映像で撮影がプレス用に公開されるから、一緒に行こう」と僕を誘う。アテナ映像とは、巨匠・代々木忠監督のアダルトビデオ・メーカーである。社内に撮影スタジオがある。行ってみると撮影はまだ始まらないようで、取材記者やライター、カメラマンが十数人、事務のフロアで待っていた。皆、デスクの上に無造作に置かれたAV情報誌や、ヌード・グラビア誌を退屈しのぎにパラパラとめくったりしている。僕もそれにならい一冊手にとってみると、自分がデザインしたページに行き当たった。「ああ、懐かしい」と思い、もう一冊、もう一冊と次々手に取ると、すべてに自分が手がけた誌面があった。
ふと見ると取材者の中に、友人で白夜書房『写真時代』の編集者だったSがいる。「よう、久しぶり」と声をかけるも、Sは曖昧に笑うだけだ。何故僕のことが判らないのだろう、と思ってハッと気づく。Sはとても若い。20代の後半くらいに見える。ひょっとして、と思い、「そろそろ『COMET〈コメット〉』の入稿、始まるんじゃないか?」と訊いてみた。『COMET』とは、『写真時代』の後、Sが編集長として創刊したヌード・グラビア誌である。僕もデザイナーとして関わっていた。しかしSはやはり、意味が判らないという表情をした。そこではっきりした。僕は80年代後半にタイムスリップしたのだ。Sが『COMET』を手がける前だとすると、1987年くらいだろう。20代のSが、55才になった僕に気づくはずがない。そんなことを考えていると、周囲には誰も居なくなっていた。
撮影が始まったのだろう。慌ててスタジオを探して社屋の階段を降りるが見つからない。駆け廻っているうちに、小さな小部屋に迷い込む。するとそこには魔法使いのお婆さんがいて、火の点いた煙草を差し出し、「さあ、これを吸いなさい。そうすれば元の世界に戻れる」という。言われた通り煙を吸い込むのだが、何しろ煙草をやめてそろそろ25年経つ。頭がクラクラして倒れ込むと、アテナ映像はいつの間にか『天空の城ラピュタ』の飛行船のように空高く飛んでいて、僕は真っ白な空の中に落ちていった──。何故こんな夢を見たのかは何となく判った。昨日帰りの新幹線の中で、有野陽一さんの書かれた
『エロの「デザインの現場」』(アスペクト)という本を読んでいたからだ。内容に関してはまた明日にでも。
※写真は昨日の朝、兵庫県相生市にて。伯父の家の周りを散歩しつつ撮った一枚。使われなくなった公民館とか、そんな建物ではないだろうか。しんとした、雨の庭。data:ニコンD70、AF-S DX Zoom Nikkor ED 18-55mm F3.5-5.6G。ISO・200。