先週の金曜日から、NHK朝の連ドラ『ごちそうさん』を観ておりません。というのは土曜日テレ朝で放映されHDD録画しておいた
『松本清張ドラマスペシャル・三億円事件』がやたら面白く、しかも2時間20分もあったため、仕事終わりで30分、40分と細切れで観ていたからです。昨夜やっと見終わりました。これはタイトルにもあるように松本清張が1975年『週刊朝日』に短期連載した、『小説 3億円事件「米国保険会社内調査報告書」』を元にしているそうで、史実とは多少違う。フィクションではあるのだが、それでも主演で米国保険会社調査員を演じる田村正和を初め、協力する日本側のリサーチ会社職員の余貴美子、段田安則。さらに元刑事の光石研、特に真犯人とされる弟(手越祐也)を溺愛するあまり最後には殺してしまう姉・板谷由夏などなど、役者の存在感が凄くて、イヤハヤ見応えがありました。
それにしても「三億円事件」っていったい何回ドラマ、映画化されているのだろう。古くは阿久悠、上村一夫・原作、長谷川和彦・脚本、主演・沢田研二の『悪魔のようなあいつ』(1975年、演出は久世光彦)。近年では一橋文哉の原作を元に劇画『人間交差点』(画・弘兼憲史)で知られる矢島正雄が脚本、ビートたけし、長瀬智也、松田龍平が出演したのもあった。その他、ノンフィクション系の特番を合わせたら年に一度は作られているのではないか? もうほとんど『忠臣蔵』状態である。日本人は、かくもこれほど「三億円事件」が好きなのか? もちろん理由は幾つも、ある。第一に被害者が誰一人傷つくことなく大金が奪い去られた、ある意味痛快な知能犯であったこと。そして最重要容疑者と言われた不良少年が謎の自殺をしてしまったこと。
さらにその父親が警察官であり(今回のドラマでは伯父が元キャリア警察官僚となっていたが)、犯人に自殺されてしまった警察が面子を潰されたことを恥じ、事件をもみ消したのではと噂されたこと。ニセの白バイ、ジュラルミンのケースと言った小道具立てがいちいち効いていたこと、等々。ただ、僕が思うにそれよりも我々がこの事件に惹かれるのは、その圧倒的な昭和感ではないか? 僕なんてまさにそのクチで、今回のドラマでも、雨の降りしきる府中刑務所の壁沿いの道路で、白バイが現金輸送車を止める冒頭シーンから圧倒的にヤラれてしまった。もうほとんど黒澤明の映画の世界である。つまり「もはや戦後ではない」と言われ、日本中が少しずつ豊かになっていくザワついた雰囲気だ。ちなみに事件現場は我が家とけっこう近く、特に通称〈第四現場〉とされる「カローラが乗り捨てられていた団地の駐車場」(遺留品に空のジュラルミンケースが残り、現金抜き取りがこの場所で行われたのでは? と言われる)は時々通る。最近の公団はURと名前を変え高級なマンション風に建て替えられているところが多いが、ココは未だ古き良き「昭和の団地」であります。