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<鶯谷は幻の町である。少なくとも行政的な地名としての鶯谷は、地上に存在しない。>
本橋信宏・著『東京最後の異界 鶯谷』(宝島社)は、このように始まる。痺れる書き出しである。曰く「鶯谷」とはあくまで山手線の駅名と一部の店名、道路標識に存在するだけで、正式な住所で言えば台東区根岸近辺となる。それでは果たして「鶯谷」は何処にあるのか? 答えは「無い」。人々の妄想と欲望の中だけに存在する。つまりは「異界」なのだ。水木しげる、貸本漫画時代の短編に「四階に棲みつく妖怪の話」があったが、それを思い出した。ある家主が五階建てのビルを建築し貸し出すが、「四」という数字は「死」を連想して縁起が悪いので、三階の上は五階とする。しかしある日奇妙な店子が現れ「それでは四階は空いているのだな」と強引に居座ってしまう。そこは三階から見上げれば確かに階上にあるが、五階から見ても一階下に見える。つまりは何処にも「無い」階なのだ。けれどそこには誰かが確かに棲息している。 それは結核から脊髄カリエスを発症し、地獄の苦しみを味わい最期の時を過ごした俳人・正岡子規に、その友人である夏目漱石、高浜虚子、中村不折。この地で暮らした昭和のカリスマ、林家三平に若大将・加山雄三。三平宅を娘を連れて現れ、「この子は天才なんです」と語った藤圭子。もちろん娘とは宇多田ヒカルだ。さらには駅前で24時間酒が飲める定食屋兼居酒屋『信濃路』に現れる、芥川賞作家・西村賢太まで。様々な人々の逸話がモザイクのように織りなされて物語は進む。そして鶯谷もうひとつの顔が「欲望」である。近年、失われた10年による不況から店舗型の性風俗店が激減。それに代わって現れたのがデリバリーヘルス、略称・デリヘルである。これは店という実態を持たず、客の待つラブホテルに女性を派遣(デリバリー)するシステムを取る。そう、これもまた水木しげるの怪奇漫画に於ける「無い」ところに棲みつく人々だ。 鶯谷では現在10代の少女から70代の老女までが金で買えるとまことしやかに語られるらしいが、その中心になるのが通称・韓デリと呼ばれる韓国からの若い出稼ぎ女性。そして人妻だ。韓国の女の子たちは「パネマジ(パネルマジック)」という、極端な修正写真で宣伝される。これは美人にデジタル加工して客を呼ぶ意味もあるが、韓デリの広告はインターネットにアップされるので世界共通。つまり本国にいる家族や恋人に発見されないよう、「この世には存在しない人」として作られているのだ。一方の人妻は横浜や所沢といった郊外に小さな一軒家を持つ場合が多い。住宅ローンや子どもの養育費に追われ、この地にやって来る。新宿や渋谷といった自宅からの動線上にある街では、知り合いに会ってしまう可能性もあるが、鶯谷では異邦人である。つまり人妻にとってこの地はやはり「異界」なのだ。夫のモラハラとDVに苦しむひとりの人妻が語る言葉が生々しい。「指名が入ると興奮するんです。私もまだ、女として見られてるんだって」。つまり彼女たちにとっての鶯谷は、失われた実態を取り戻す「約束の地」でもある。 東京を描く作家としては、『私説東京繁昌記』等数々の名作をものする小林信彦が知られるが、次世代の東京を描くのはこの本橋信宏だと思う。小林氏が旧東京市日本橋区生まれの和菓子屋の長男であるのに対し、本橋さんは本書の中でも語られているが、埼玉県所沢市にて私鉄に勤務するサラリーマンの子息として育つ。この違いが実に象徴的だと感じるのは僕だけだろうか? 僕自身も川崎北部の郊外という都内通勤圏に育った。だからこそひしひしと感じることが出来る。東京は増殖している。時間的にも空間的にも経済的にも。しかし何より、人々の「妄想」と「欲望」の中で無限に広がり続けている。その中心にブラックホールのように存在するのが鶯谷だ。つまりは「異界」なのだ。 ※写真は本書には使われなかったいわゆるアウトテイクに、タイトル・著者名、帯に書かれた惹句を載せてみた。鶯谷北口近く、元三島神社脇のラブホテル。屋上のヴィーナス像を撮影。data:ニコンD70、AF-S DX Zoom Nikkor ED 18-55mm F3.5-5.6G。ISO・200。
by tohramiki
| 2013-12-13 23:02
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