今日会社から帰る中央線の中で、ロス・マクドナルド『魔のプール』を読み終わった。
7月6日の日記で読み始めたと書いたが、途中仕事に必要な本を何冊か読まなければならないことになったので、結局ひと月近くかかってしまったわけだ。この小説は大学を卒業した23才の時、とある出版社にアルバイトでもぐり込み、当時は川崎の百合ヶ丘というところにある実家暮らしだったので、往き帰りの小田急線の中で初めて読んだ。ロス・マクドナルド、探偵リュウ・アーチャーのシリーズというと、黒いカバーの早川文庫がお馴染みだが、この『魔のプール』や第1作の『動く標的』、また『凶悪の浜』といった初期の作品は創元推理文庫から出ていた。そして後期は主人公のアーチャーが中年になるに伴い、作者マクドナルドの文体も重厚になり深く翳りある文学性を帯びていくのだが、個人的には自分が若かったからだろうか、この辺りの作品が好きだった。
ところで、現在50代以上の本好き、特に推理・ミステリ・SF好きの人なら「ああ、そうだった」と想い出してくれるのではないだろうか? この創元推理文庫は、巻末にズラリと自社刊行物のラインナップを掲載していた。「本格推理」「ハードボイルド・警察小説」「怪奇と冒険」「スリラー・サスペンス」「SF」とジャンル分けされ、8ポイントから6ポイントという小さな活字で3段組み。この『魔のプール』を例に取ると10ページ、約600作品が並んでいる。また「スリラー・サスペンス」には黒猫、「ハードボイルド・警察小説」には拳銃と、それぞれにイメージマークが付いていた。電車の中で本編を読みつつ、途中疲れるとこの巻末ラインナップをぱらぱらと眺める。そして「次は何を読もうかな」とわくわくしたものだ。だけど同時にその作品数の多さにひるみ、「こんなにあって読み切れるのかな」と奇妙な不安にも駆られた。
あの気持ちは何だったのだろう? きっと、将来に対する漠然とした想いだったに違いない。ところで先に書いた初めて入った出版社は麹町にあった。現在僕の通う会社からは、直線距離にして500メートルほどしか離れていない。約30年経ってぐるりとひと廻り、元の場所に戻ったような気がする。