渋谷アップリンクで行われた、
『「監督失格」まで』(ポット出版)刊行記念──平野勝之90年代作品特集上映』の上映後トークから戻って来たのが日付変わって23日の0時半くらい。そうそう、夜遅い時間にも関わらずお越し頂いた皆さま、拙著にサインをと声をかけてくださった方々、ありがとうございました。で、深夜我が家にたどり着き服を着替え、やれやれと録画しておいたNHK朝の連ドラ『あまちゃん』を1日遅れで観た。4月20日土曜日放映のラストは、足立ユイちゃん(橋本愛)がミス北鉄に選ばれたことにより、閑散していた北三陸駅にカメラ小僧たちが大挙して押し寄せ、あわてふためく副駅長・荒川良々のアップで終わった。その顔を見て、ハテこの人、実はけっこう端正な顔立ちなのだな、と思った。いや、ずいぶん普通の面持ちになったというか。以前の荒川良々と言えば挙動不審でちょっと不気味なキャラで、「こんな人テレビに出していいのか?」という雰囲気すらあった。
これは誉め言葉である。高校生の時向田邦子脚本のドラマ『冬の運動会』(1977年)で、まだ唐十郎の状況劇場に在籍していた頃の根津甚八を初めて見た時、子供心に「こんな危険な匂いのする人をテレビに出していいのだろうか?」と思ったものだ。ところで荒川良々という役者をいつハッキリと認識したんだっけ? と考えていたら、そうか、平野勝之とも関係の深い井口昇の『恋する幼虫』じゃないか、と思い付いた。これは井口くんがアダルトビデオを撮って貯めたお金を投入して制作した自主映画で、そう言えば『あまちゃん』に登場するオタクカメラマンの一人で、アキ(能年玲奈)に「どけよ、ブス!」とひどいことをいう男を演じる村杉蝉之介も出ていた。『恋する幼虫』は2003年の東京国際ファンタスティック映画祭の正式出品作で、僕は新宿ミラノ座の巨大スクリーンで観たのだった。
荒川良々さんも共演の松尾スズキ氏や乾貴美子さんと一緒に舞台挨拶に立った。松尾さんは三つボタンのスーツにハットというオシャレな格好だったが、荒川さんは地味なパンツにセーターといった普通の服装だった。いや、それよりも監督の井口くんとプロデューサーのしまだゆきやすくんが、文字通りの晴れ舞台にも関わらず本当によれよれのジーンズにジャンパーといったスタイルで、一緒に観に行った人と「うひゃあ、普段着にもほどがあるよね」とくすくす笑い合ったものだった。思えばもう10年前の出来事である。『恋する幼虫』は、自己資金のみで苦労して撮影していた井口くんを見て、しまだプロデューサーが「井口、俺も金出すよ」と私財をなげうったのだと聞いている。そのしまだくんも故人になってしまった。最後に会ったのは、まさに平野勝之作品『監督失格』の試写会場だった。