今日もしんどい一日だった。校正と、各店舗さんに電話して確認という作業に追われた。特に難しいことをやってるわけじゃない。ごく普通のフリーライターと呼ばれる人なら、日常的にこなす簡単な仕事だろう。しかしそれが出来ない。単純なミスを繰り返す、大切なことを聞き忘れる、相手をイライラさせる──等々。自分のだめさ加減に心底うんざりする。近頃こういう日は、決まって死んだ親父のことを思い出す。思い浮かべるその顔は何故かいつもニコニコと笑っている。不思議だ。生前は決してにこやかな男ではなかった。いつだって不機嫌そうな顔ばかりしていたというのに。そう言えば親父が死んですぐ、母親と一緒にお寺さんに挨拶に行ったことがあった。場所は小田原だ。
実家のある新百合ヶ丘から小田急線に揺られちょうど1時間。葬儀などの疲れが出たのか、隣でうとうとしていたオフクロがはっと眼を覚まし、「今、パパの夢を見たわ」と言った。彼女は夫をずっとそう呼んでいた。そしてちょうど停車した駅のホームを指差し、こう言う。「ほら、あそこにあるような柱の陰にいて、ニコニコ笑って手招きしてるの。『こっちへ来い』って」。僕は苦笑して、「そんなに早く連れていかれても困るけどな」と軽口を叩いた。あれから21年、おかげさまで母は今も元気でいる。親父の命日は3月25日。墓参りもずいぶん行ってないな、と思った。その頃には桜が咲いているかもしれない。