昨日の日記で、月曜日に墨田区のタウン誌取材に行って来たと書いた。僕は急に仕事を頂いたので詳しい内容はよく判らないのだが、スカイツリーも出来たことだしクーポン券付きフリーペーパーを作って、この際地元商店街をワッと盛り上げよう! という企画であるらしい。伺ったのは昨日の最後でちらりと触れたけれど、まずは焼き鳥屋さん。焼き鳥屋さんと言っても居酒屋ではなく、古い商店街にはよくある、店先で焼いてお総菜として売るお店だ。ご主人が鶏をさばきパートのおばさんが串に刺し、奥さんが焼く。何しろこういう仕事は初めてなので、「お仕事中すみません、取材の者なんですが」とちょっと緊張気味に声をかけると、下町という土地柄もあるのだろう、「まー、狭いとこだけど入ってよ。でもこんな店だから面白い話なんてないよー」なんて言いつつこの道40年、仕事の手を休めずにニコニコ笑って答えてくださる。
こちらも最初は「ご主人」「奥さま」なんて言ってるんだけど、気がつくと「お父さん」「お母さん」と呼んでたりする。ずうずうしいというか何と言うか(笑)。何しろ「ちょっと食べてみるかい?」なんて、焼きたてアツアツの手羽先を振る舞ってくれたりするのだ。昨日まで生きてた鶏を甘辛いタレにつけ、専用のオーブン(丸焼き風にクルクルと廻るヤツだ)で焼くのだからコレはもう絶品。「美味いっスね!」と言うと「もう一本いきなよ」「イヤー、ビール欲しくなっちゃうなー」なんて取材してんだか遊びに来たんだか。帰りにはご主人が奥さんに「オーイ、唐揚げ袋に入れって持って帰ってもらいな」なんておみやげまで貰ってしまう。続いてお邪魔したお鮨屋さんでも、撮影用に作って頂いたちらし寿司を「帰ってから食べてください」とやはり包んで貰い、「ウチのおすすめですから」とマグロの佃煮なんていう珍しいものまで頂戴した。
マグロは切り落としが出るのでもったいないからと先代が考案され、「アツアツのご飯に乗せて食べて貰うと美味しいですから」とのこと。同行のカメラマンさんと二人して、「ちょっと皆さんイイ人過ぎますね。この先とんでもないトラブルとか起きないですかね」なんて言いつつ最後は東向島のもんじゃ屋さんへ向かったのだが、そこでもまさに下町美人といったママさんが「アラ、アタシの写真も撮るの? もっとちゃんと化粧してくればよかったワ」と笑顔で迎えてくれた。お話してるうち「忙しい時は嫁いだ娘が手伝いに来てくれるのよ」とおっしゃるので、「えっ、そんなに大きなお嬢さんがいらっしゃるんですか?」「だってアタシ、孫が3人いるわよ」「うっひゃあ、失礼ですが何年生まれで?」「昭和33年よ」「わー、僕も33年なんです」「ヤダー、同級生じゃないの!」なんて盛り上がったりして。ただし残念なのはお邪魔したお店すべての方が「でもね、スカイツリーが出来ても決してお客さんがたくさん来てくれて儲かるなんてことはないんですよ」とおっしゃっていたこと。
しかし、先の焼き鳥屋さんとお鮨屋さんの商店街を例に出すと細い道がわずか500メートル強。にもかかわらず八百屋さんからお肉屋さん、生活雑貨に各種お総菜と、要は一日の買い物はそこを歩くだけですべて完了するのだ。しかもスーパーよりも断然安い! さらに皆さん下町人情に厚い人ばかりなので買い物してる人は誰もが笑顔だ。それで決して儲からない、「個人商店は苦しいよ」というのはいったい何処に問題があるのだろう。僕も極めて小規模な弱小個人売文業だからまったくもって他人事ではない。ただし僕の棲む出版業では、多くの版元、大手出版社であっても実は楽な状況ではないのだ。こういう時期だからこそ、小さな商店街や個人経営のお店にも何か活路があるような気もするのだが──。
※Facebookの
〈『猫の神様』ページ〉、本日もまたまた更新しております。