5時半起床。今日の午前中がデッドラインのギリギリと言われていた『ビデオ・ザ・ワールド』誌のAVレビュー、昨夜書き残してしまったものが数本あったので、早朝よりiMacに向かう。いつもの月より約1週間〆切が早まっている。今月末から始まる連休を見据えた、いわゆるゴールデン・ウィーク進行というヤツである。僕らフリーランスはもちろんのこと、出版に関わる人種というのはおしなべて休日もくそもなく働くことを強いられるものだが、連休には印刷屋さんが閉まってしまうので致し方ない。そのぶんだけ工程が前倒しされるわけですね。しかしその実、印刷所が休むというのは大手だけであり、ひとつの建前でもある。本音は組合がうるさいから休まざるを得ないのではないだろうか。従ってはみ出した仕事は中小の下請けに廻されることになる。
僕は毎年この季節になると何故か気分が暗くなるのだが、それは20代の頃、マイナーなヌードグラビア誌の編集をしていたからだと思う。まず、印刷会社の営業担当さんの眼が三角に釣り上がる(涙)。何故なら彼らは彼らで、現場から突き上げられるからだ。「何やってンだ、原稿入って来ないぞ」「どうすんだよ、機械止まっちまうぞッ」と。そもそも営業と業務(製版、印刷、製本)との間には、えも言われぬ対立がある。こういう言い方をすると怒られるかもしれないが、自衛隊に於ける背広組と制服組のようなものだ。営業は「仕事の中枢を担ってるのはオレ達だ」と自負しているが、現場には「オレ達がいなきゃ本は出来ないだろう」という意識がある。しかも何処か営業は頭脳労働、現場は肉体労働という雰囲気もある。給料も違うはずだ(本当は営業さんも一日中歩き廻る肉体労働なんだけど)。
それはともかく、僕の場合大日本印刷や凸版という大手の印刷会社とも仕事をしたが、中小の印刷屋さんにもたくさんお世話になった。そして、そういう会社はさらに小さな製版屋さん、製本屋さんを下請け、孫請けとして抱えている。場所は飯田橋から神楽坂の下、当時は梅雨や台風になると神田川が氾濫する、いわゆるゼロメートル地帯。家賃が安い場所に工場がある。GW前、本当に〆切ギリギリになると本社の現場は止まってしまうので、営業さんに連れられそういう所に出張校正に出かけた。夜中に近い時間になると、既に作業場の電気は落とされていて、従業員も帰ってしまい、ベテランの製版職人さんがたった一人残って青焼きを出してくれたりした。直しが終わると、営業マン氏は「じゃあ、私はこれから印刷に廻りますので」と、製版フィルムを抱え慌てて飛び出して行く。
けれどまだ景気の良かった時期だ。「これで帰ってくださいね」とタクシーチケットをくれたりした。職人さんに「お送りしますので、何処まで行きましょう」なんて言い、タクシーに同乗する。でもコチラはまだ20代の若僧だ、二人っきりの車内で話すことなんてなく、しかも現場の人というのは無口な人が多い。大抵は押し黙ったまま、窓の外を流れる夜の景色を見ていた。すると相手がぼそっと「編集ってのも大変だね」なんて言う。「いえいえ、すみません、遅くまで」と恐縮し、「連休は何かご予定は?」なんて訊ねてみる。「まあ、休みって言ったって、競馬行って、あとは家で酒飲むくらいかなあ」なんて答えが返って来る。こちらも同じだ。忙しい忙しいと誘いを断ってばかりいると、友達とはどんどん疎遠になっていった。「ゴールデン・ウィークなんて、何もいいことないですよね」と呟いた。だからこの季節は毎年暗くなる。
※写真は4月17日撮影。公園の葉桜の下、ベンチに座るお年寄りのご夫婦。data:ニコンD70、AF-S DX Zoom Nikkor ED 18-55mm F3.5-5.6G。ISO・200。