5時20分起床。6時よりjogに出る。気温は2℃と低いが晴天。桜は8分咲き。つまりはまさに見頃の日曜日。人が多くなる前の早い時間にと思ったのだけれど、やはり公園は走りにくい。というのはさすがに花見客は場所取り以外はいないが、、焼き鳥やらタコヤキなどの屋台設置が既に始まっているからだ。商工会風のオジサン達も、臨時駐車場の設営を開始していた。なのでゆっくりウォーミング・アップをしてから公園を出て、玉川上水沿いの遊歩道を行くことにした。こちらも
〈名勝・小金井桜〉と言って有名なのだけど、公園内の染井吉野より、毎年1週間ほど遅れて咲き始める。今はまだ3分から5分咲きといったところ。我が家から玉川上水を西に約3キロ進むと関東管区警察学校があり、正門前の桜並木がまた素晴らしい。本日はそちらを目指すことにした。
約20分くらいゆっくり走ると、国道133号線と交差する喜平橋という交差点に出る。その向こうが警察学校なのだが、この方面に来たのはたぶん半年ぶりくらい。すると景色が変わっていた。おそらく交差点付近の渋滞を緩和するためだろう、道路の幅がその部分だけ広げられ一部さら地になっている。アレって不思議ですね、それまでの建物が取り壊されてしまうと、「エート、ココって何だったっけ?」と、途端に以前の景色を思い出せなくなってしまう。しばらくしてやっと記憶が甦った。奇妙な雑貨屋があったのだ。おそらく戦後間もない頃からあるような、傾きかけた平屋建て。昔田舎でよく見かけた、壁には
〈水原弘のアース〉や
〈松山容子のボンカレー〉のホーロー看板が貼り付けてあるような。そして「この店、どう考えても何かが売れているとは思えないな」と感じるような。
しかもその店はさらに奇妙だった。おそらく店主による手作りだろう。店先にはガラクタを集めたようなベンチやテーブル、鉄製の灰皿などが並べてあって、「どうぞご自由にお座りください」とか「憩いのひとときを」とか書かれた貼り紙がべたべた貼られていた。けれどどう見てもくつろげるような場所ではなく(何しろほとんどがゴミ同然のガラクタで作られているので)、誰かが座っているのを一度として眼にしたことはなかった。さらにある日、誰かがそこに不要品でも投棄したのだろうか、一転「ゴミを捨てるとは何ごとか!」「お前には良心というものが無いのか」「地獄に堕ちるぞ」というような罵詈雑言の貼り紙がされていた。この界隈にはかつてこういう奇妙な建物が数多くあった。古い、まるで幽霊屋敷のような木造アパートとか。
調べてみると関東管区警察学校の創設は昭和23年。おそらくその雑貨屋は、かつては学生達が昼食にパンを買ったり、ノート類などを調達するところではなかったか。また多くの木造アパートは、アパートと呼ぶよりも下宿、もしくは寮という雰囲気があった。やはり学生向けだったのかもしれない。それらは時を経て、少しずつコンビニとマンションに代わっていった。僕は約20年前この土地に引っ越して来て、本格的にジョギングを始めた。そして時にこうして公園を離れ遠くまで足を伸ばしてみると、この武蔵野の地はまるで魔界のようだった。2年前のNHK朝ドラ『ゲゲゲの女房』の中にも、向井理演じる水木しげるが桜井昌一がモデルと言われる戌井さん(梶原善)の家から、嵐の夜に多摩霊園を通って家に帰ろうとするものの、何故かそこから出られなくなるというシーンがあった。
水木先生が戦後東京に来た時調布に居を構えたのは、偶然だったわけではなく、この土地に何か不気味なものを感じ取っていたのかもしれない。あのドラマでも時代が進むにつれ妖怪達が姿を消していったわけだが、こうして雑多なもの不思議なもの、いかがわしいものはどんどん整理されて町は小綺麗になっていく。悪いことだとは別に思わないが、そのぶん桜も年々、妖しさを失っているようにも見える。梶井基次郎氏もおそらく、今なら樹の下に死体が埋まっているとは書かないだろう。ところでアースの看板の水原弘は、村上龍に似てると思う・・・いや、村上龍さんの方が似てるのか(笑)。