今日届くと思っていた『つげ義春漫画術』の下巻はまだ来ず。送り主の古本屋さんからは「ゆうメール」で出したとある。宅配業者のメール便同様、通常の郵便より時間がかかるのかもしれない。そこで我が家にあるつげ義春の著書を本棚から引っ張り出し、パラパラとめくったりしている。まずは青林堂から出ている『つげ義春作品集』。これはA4版460ページ余、箱入りの豪華本だ。定価3,000円。奥付を見ると1975年6月15日第1刷発行、とある。75年と言えば僕は高校生だから、こんな本を買う余裕はなかったはずだ。
僕が初めてつげ義春の作品を買ったのたぶん大学生になってから。『ねじ式』と『紅い花』がそれぞれタイトルになっている、小学館文庫の短編集だった。Amazon.co.jp で調べてみると、装幀は変わったものの今でも同じ内容で出版されているようだ。しかしこの2冊は何度かの引っ越しで無くしてしまったようだ。もう一冊が小学館の『つげ義春選集』。こちらはB5版と版形は一回り小さいが、やはりハードカバー箱入りで定価4,800円。値段は高いがそのぶん1095ページもある。1986年初版一刷発行。
これは良く憶えている。高田馬場の芳林堂で見つけた。『つげ義春作品集』とだぶった作品も多いのだが、「大場電気鍍金工場」「義男の青春」「ある無名作家」等が入っているので買ったのだ。それに当時僕はアダルトビデオを撮り始めていて多少お金があったのと、何かシナリオのネタにもなるかもしれないと、そんなことを考えた記憶がある。他には『必殺するめ固め』(晶文社・1981年)、『隣りの女』(日本文芸社・1985年)。この2冊は発売されてすぐに買った。他に短編「夜が掴む」「退屈な部屋」を含むエッセイ集『つげ義春とぼく』(晶文社・1977年)もあったはずだが、やはりいつの間にか何処かに無くしてしまったらしい。
しかし逆に「どうしてこんなものが?」と思うのが一冊。文庫の『おばけ煙突』。これはつげの初期、貸本時代の作品を収めたものだ。「サラ文庫」というシリーズ・タイトルが付いていて、発売は二見書房。発行年月日が76年初版とある。これは、大学の同級生で一緒にバンドをやっていたヴォーカルのI、彼の自由が丘の下宿、その本棚にあった。サッパリ忘れていることばかりなくせに、人間というのは妙なことを憶えている。ということはIの部屋から勝手に持って来てしまい、そのうち返すつもりが忘れてそのまま今日に至ったということか?
勝手に持って来た──というのはたぶんこういうことだ。勉強なんてほとんどせず、毎日バンドと遊びに明け暮れていた僕らは、夜は大抵酒を飲み、誰かのアパートに泊まった。翌日部屋の主が早い時間からバイトに出かけると、残った者はそのままウダウダと寝ていたりする。どうせ盗られるものなんて無いから、鍵をどうこうなんて誰も気にしない。それで何気なく本棚にある漫画を読み始めたのだろう、やがて自分もバイトに出かける時間になり、本を手にしたまま部屋を出て電車に乗ったのだ。Iのヤツ今頃この日記を読んで、「何ンや、そうか。無い無いと思ってたらトーラが持って行ってたんか!」と言ってるかもしれない(笑)。それにしてもあれから30年、この小さな文庫サイズの『おばけ煙突』だけ何故、数度の引っ越しにも紛れずに今此処にあるのだろう?