6時半起床。7時よりjog。101分走る。夕方、渋谷にて高校時代の友人と会う。イニシャルは二人ともK。一人は
昨年夏久しぶりに再会した高校美術教師のK。もう一人は『追想特急〜lostbound express』の
サディスティックスのコンサートに登場するK。道玄坂のキリンシティにて美味しい生ビールを飲み、明治通り沿いにある70年代の古いロックを聴かせる店、
GRANDFATHER'Sでフォアローゼスを飲む。高校、そして予備校時代、こうして三人、そして他の友人も交じり、同じように音楽を聴いた。荒井由美、ティンパンアレー、シュガーベイブ、ムーンライダーズ、etc. あの頃高校生にとってレコードは高いものだったから、それぞれ買ったLPを貸し合い、カセットテープに録音して聴いた。
初めて会った時どのように声をかけ、親しくなったのかまったく憶えてない。高校2年でクラスが一緒になった。22ルーム──僕らの高校は学級をこう呼んだ。1年1組は11ルーム、2年2組だから22、と。男全員がやたら個性的で、異様に仲の良いクラスだった。成績の良いヤツ出来ないヤツ、ラグビー、野球に熱中するヤツから、今で言うヤンキーまで。「青木、浅野、安部、阿部、渥美、岩木、植田、加藤、金子、香山・・・」、そう出席番号順に名前を言ってみると、どの机に座っていたのか、それぞれの髪型──長髪、リーゼント、IVY風の短髪──制服の着こなし、持っていたカバンまでが眼に浮かぶ。
「T、憶えてるか?」と僕は訊く。「もちろん」と二人は答える。そんなクラスの中にあって、ただ一人誰とも馴染めなかった男。決して性格が悪かったりイヤなヤツだったわけではない。ただ、Tはあまりに物静かで大人しかった。細っそりと色白で繊細な感じがしたが、卒業するまで彼がどんな少年だったのか我々には判らなかった気がする。「俺達、何故Tにもう少し話かけなかったのだろう?」、そうお互いに問いかけてみても、答えは出ない。ただ、授業が終わり、皆が「さあ、放課後は何をしよう」「帰りは何処へ寄ろう」とガヤガヤしている教室で、Tがカバンを持って立ち上がり、一人教室を出て行く姿だけが想い出される。
Tは果てしなく孤独ではなかったか。例えば誰もが遅くまで起きて話し、隠れて煙草を吸った修学旅行の夜、Tは何をしていたのだろう。一人、ひっそりと布団に入り眠っていたのだろうか? 二人のKと別れ、中央線に揺られながら、何故僕はTに話しかけることが出来なかったのだろうかと考えた。僕はたぶん、Tのことが恐かったのだ。例えば僕がこう話しかける。「なあ、俺はロックとかフォークとか、そういう音楽が好きなんだけどさ、Tは何か趣味とかあるの?」と。そんな時、もしもTが「いや、特に俺にはそういうのが無いんだよ」と答えたりしたら、自分はどうしたら良いのだろう、と。
16才の少年の自我なんてそんなものだ。情けないほど不安定で弱々しく脆い。だから我々は音楽や映画に夢中になった。そんな自分に空いた虚しい穴を、鈴木茂の「微熱少年」や鈴木慶一の唄う「火の玉ボーイ」、『アメリカン・グラフィティ』のリチャード・ドレイファスや『タクシー・ドライバー』のロバート・デ・ニーロの姿で埋めていた。今ならきっとTに話しかけられるだろう。やあ、元気かい、あの頃君は何を思っていた──と。