午前10時、品川の桐ヶ谷斎場にて告別式。昨夜はKの好きだった黒糖焼酎「れんと」を飲み、井の頭線明大前近くにある阪本正義宅に仲間数人で泊まる。深夜皆で、Kと仙頭武則氏が共同でプロデュースした河瀬直美監督
『萌の朱雀』のメイキング版を観る。これは同作の撮影風景から、ロッテルダム映画祭で国際批評家連盟賞を取り、さらにカンヌ国際映画祭でカメラドール(新人監督賞)を受賞するまでを追ったドキュメントだ。Kは脚本演出と編集、一部の撮影からナレーションまでを担当している。音楽は、全編にわたり阪本の唄とギターが流れる。
後半、カンヌの場面ではジム・ジャームッシュやウォン・カーウェイと共にステージに並ぶKの姿が写る。髪が長い。肩にかかるほど。仙頭氏も同様だ。この時二人の中に“長髪”というマイ・ブームがあったのかもしれない。僕の大学時代の同級生で、『萌の朱雀』ではスクリプターを、メイキングではほとんどの撮影を担当したRがふと、「Kにとって映画を撮るということは、ロックを演る、ギターを弾く、音楽を作るということと同じだったんだと思う」と言う。
明けて告別式。生前から親しかった若い住職さんにお経をあげて貰い、焼香。献花し、棺の蓋を閉める直前、Kの監督作
『林檎のうさぎ』で助監督をつとめたMが最後の儀式のため一歩前へ進み出る。手にはカチンコが握られ、そこにはチョークで「またね」と書いてある。Kが別れの際に良く使う言葉だった。「じゃあ、またね」と。Mは「コバさん──我々友人は名前を呼んだが、映画関係者は彼をこう呼んだ──は映画監督だったので、少々風変わりではありますが、最後はカチンコを叩いて送らせてください」と前置きし、「それではラストカット、本番まいります」と声を張る。参列者からも「本番」「本番いきます」と声がかかる。「ヨーイ、スタート!」でカチンコの乾いた音が鳴った。一拍おいてMは「コバさん、OKでしょうか?」と訊ね、全員が「OK!」と声をかけ、すべての儀式が終了した。
此処数日、友人Kこと小林広司へのおくやみ、そして東良美季への励ましのメールを多数頂戴致しました。皆さまの優しいお心遣いに深く感謝いたします。ありがとうございました。